将来は「全人類のゲノムを把握」…科学の常識を”破壊”した「ゲノム解析技術」驚異の最前線
現在では考えられない、20年前のゲノム実験の実態
山中1990年代の後半に僕はカリフォルニアにあるグラッドストーン研究所から日本に帰国したんですが、その時は自分でもまだ実験をしていました。 ゲノム解析をするために当時どうしていたかと言うと、電気泳動でDNAを分離する装置を自分で作るところから始まります。一晩かけて固まったゲルにDNAのサンプルを流し、何時間か電気泳動をした後、ATGC(アデニン、チミン、グアニン、シトシン)の4文字からなるDNAの塩基配列を読み取っていきます。だから一回の実験で、せいぜい500塩基対、つまり5百字を読めるくらいで、それが10~20サンプルですから、全部合わせても最大一万字が読めるという程度です。 羽生20年前には、すごく手間がかかったんですね。 山中一度に1万字しか読めないんですから当然です。
「ヒトゲノム・プロジェクト」
山中月に人類を送り込む「アポロ計画」に成功したアメリカが次に挑んだ一大プロジェクトが、1990年の初めから始まった「ヒトゲノム・プロジェクト」です。アメリカを中心にイギリス、世界各国の研究者が力を合わせて、一人で30億塩基対あるヒトのゲノムを全部解読しようとする壮大な計画でした。 日本も少し貢献して、ヒト一人の全ゲノム暗号を10年以上の歳月と何千億円という資金をかけて、やっと解読したんです。なかなかうまく読めなかったりしていたんですが、計画は2003年に完了しました。それからコンピュータが加速度的に進歩して、革新的なゲノム解析技術がどんどん出てきました。
ゲノム解析技術の「未来」
羽生結局、コンピュータの処理速度が上がったことが大きいのでしょうか。 山中処理速度も必要ですが、そもそもゲノムを読み取る速さで想像を絶することが起こっています。ゲノム計画で10年かかったことが、今は1日でできてしまいます。費用もどんどん下がって、2年ほど前までは10日くらいで何千万円もかかっていたけれども、今は100万円を切っています。この劇的な変化を2000年の段階で予想した人は、ほとんどいなかったと思います。 羽生じゃあ、全人類のゲノムを読むことも夢物語ではないということですか。 山中これも日進月歩です。少し長いスパンで考えると、ゲノム解読におけるこの変化がこれまでの生命科学の世界における考え方を破壊したと言うか、まったく違う段階に入ったという感じですね。 『「ヒトゲノムの8割は太古のウイルス」「遺伝子は想定の五分の一」…山中伸弥が解説するヒトゲノム計画で明らかになった「意外な事実」』に続く
山中 伸弥、羽生 善治