将来は「全人類のゲノムを把握」…科学の常識を”破壊”した「ゲノム解析技術」驚異の最前線
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第7回 『「AIの意見は鵜呑みにできない」!山中・羽生、2人の天才がうなずく意外すぎる「AIの限界」』より続く
大事なのは「ブレイクスルーが起こったかどうか」
羽生お話を伺っていると、iPS細胞の発見もそうですが、生命科学の世界は本当に日進月歩で、予想をはるかに上回る速さでどんどん変化している感じですね。 山中ええ。でも、かたや「がんの撲滅」となると、僕が医学生だったころ、多くの研究者は「人類は2000年には完全にがんを克服しているだろう」と予想していました。僕が医学部を卒業したのが1987年だから、もう30年前のことです。 でも、いまだにがんは克服されていません。もちろん、30年前に比べると治療技術ははるかに進んでいますが、やっぱりまだまだがんに負ける場合も多い。そうやって進展のスピードが予想より遅い分野も、いっぱいあるということです。 羽生そんなふうに研究が進むのが速かったり遅かったりするのは、どれだけ研究に力を注ぐかに左右される側面が大きいのでしょうか。 山中それもあります。でもいちばん大きいのは、「ブレイクスルーが起こったかどうか」だと思います。iPS細胞の発見もそうですが、生命科学すべての分野で、この10年20年のいちばん大きな発見は、何といってもゲノムの解読技術です。
予想を覆すゲノム技術の成長
山中ゲノムは細胞の中にあるDNAで書かれた遺伝情報一式で、いわば生物の設計図ですね。科学は未来を予測しますが、先ほどのがん克服にしても、だいたい未来予測は当たりません。ゲノム技術についても、20年前には今のような事態をほとんど誰も予想していませんでした。 羽生それだけ予想をはるかに超えて速く進んでいるということですね。 山中はい。