アメリカで流行する“痩せ薬”「オゼンピック」とは? ダイエットカルチャーの変遷
「いい」も「悪い」もない。「食べ物は食べ物」という考え方
――アメリカは日本よりも医療費が高額なので、病気を防ぐためにフィットネス文化が根付いていると聞いたことがあります。痩せるよりも鍛える意識が日本より強い気がするのですが、実際はどうでしょう? ダニエルさん:たしかにそういう面はあると思いますが、フィットネスインストラクターの中にはお尻を大きくしようとか、お腹を引き締めようとか、見た目を変えるために体を鍛えようと呼びかける動画コンテンツで人気を博している人はいまだにたくさんいます。 もちろん批判の対象にはなっていますが、体型を変えたいと思う人にとっては魅力的に映ってしまいますよね。運動が健康的な体づくりよりも、スリムな体型、マッチョな体型になりたい、という「目に見える」目標を持った方がモチベーションが沸きやすいという理由もあると思います。 昨年、Z世代の女性の中で「Pink Pilates Princess(ピンクピラティスプリンセス)」というフィットネスのトレンドが生まれました。「ピラティス=痩せる」といった誤った認識が広がり、サイズダウンするためにピラティスに勤しむ、そしてピンクのウエアに身を包み、ピンクのタンブラーを持ち歩いて、「#pinkPilatesPrincess」のハッシュタグをつけてSNSにアップする。フィットネスが見栄えを競うためのただのツールにしかなっておらず、これによって歪んだボディイメージや誤った健康知識が広まり、過激なダイエットや摂食障害など多くの若い女性が抱える問題に繋がると言われています。 ――映えるウエアや小物を買って写真を撮ることも本来のフィットネスの目的から離れているような。 ダニエルさん:そうですね。ボディイメージが変わりつつあっても、ダイエット願望はなかなかなくならないんだと実感します。でも、インフルエンサーの中には「痩せることにとらわれて筋トレばかりしていた時が一番不健康だった」とか「食事を極端に制限して、ジムに行かなきゃいけないという強迫観念を常に抱いていた」とカミングアウトする人も増えてきました。その中で「Food is Food」という言葉がすごく重要だなと思うんです。 ――「Food is Food」とは? ダニエルさん:食べ物は食べ物であって、いいも悪いもないということです。例えば、Good FoodやBad Food、Guilt Free、Clean Foodといった言葉が頭から離れないと摂食障害を引き起こしたり、過度なダイエットに陥りやすいと言われています。ダイエット中の人がジャンクフードを食べたら、「私はなんて悪いことをしてしまったんだろう」と自分を否定したり、「今日は夜ご飯を抜かなきゃ」と過度な罰を与えてしまう。 ――私もお菓子を食べていると罪悪感を感じてしまいます。 ダニエルさん:要はバランスであって、食べ物にいいも悪いもないはずなんです。食べ物は空腹を満たすためだったり、満足感を得たり、仕事や家事をこなすために必要なエネルギーを摂取するために存在しています。食べ物の選択によって自分を責め続けると、次第に食べることをポジティブに受け止めにくくなってしまう。 摂食障害の治療では、食べ物と中立的な関係を築くことを目指すと言われています。食べ物は体に栄養を与えるものであり、バランスよくさまざまな食材を食べることで不安や恐怖を軽減する。特定の食べ物に対して罪悪感や恥ずかしさを感じることなく、すべての食べ物を「栄養」としてニュートラルに向き合うこと。「Food is food」の考え方を知ることで私たちは食べることをもっと楽しめるのでないでしょうか。 ライター 竹田ダニエル 1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』(講談社BOOK倶楽部)での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』を刊行。そのほか、現在も多くのメディアで執筆中。 取材・文/浦本真梨子 企画・構成/種谷美波(yoi)