客車の蒸気暖房を楽しむ 柔らかさと優しさ
【汐留鉄道倶楽部】1枚目の写真をご覧いただきたい。青い電気機関車と茶色い客車の間から白い煙が上がり、係員が現状を確認しているような、見守っているような…。もちろん火事ではない。何となく緊迫感も感じられないと思う。種明かしをすると、写真に写っていない編成の反対側に蒸気機関車(SL)が連結されており、SLの蒸気の一部が暖房用として客車内の配管を通り、編成の最後部(電気機関車側)から排出されている場面。蒸気を使用した暖房設備の始業前点検をしているところだ。 【写真】自転車より遅い…100円稼ぐのに1万5516円の費用がかかる超赤字JR路線 残すべき?廃止?
SL時代の暖房は当初、青森・津軽鉄道の「ストーブ列車」のように車内にストーブを設置したりしていたというが、後に機関車の蒸気の一部を利用する蒸気暖房が普及した。SLのエネルギーの一部を利用する合理的なものと言える。旧型客車と呼ばれる戦前から1950年代にかけて製造された車両でよく見られた。オハ35系列、スハ43系列などと呼ばれる形式だ。 現在でも群馬県高崎市のぐんま車両センターに所属し、SLけん引で「レトロ〇〇」などの名称で運行される列車や、静岡県・大井川鉄道本線のSLけん引列車、下館(茨城県筑西市)―茂木(栃木県茂木町)を結ぶ真岡鉄道「SLもおか」の50系客車(旧型客車の後継の一つ)で体験できる。蒸気暖房はエアコンによる温風暖房と違って静かで、ストーブのようにやけどの心配も少ない。住宅用の床暖房に通じる柔らかさ、優しさがあると感じている。 機関車から客車に送る蒸気を、両窓下の床上を通した放熱管と呼ばれる配管を通して最後尾の客車まで送り暖房する仕組み。蒸気量の調節は各車両中央の床下や座席下に設置した加減弁、止め弁などで行う。最後尾の客車から排気しないと冷えた蒸気が水となって滞留し暖房効果が弱まるため、末端から蒸気が立ち上る。
蒸気は途中の客車からも噴き出す。蒸気暖房の立ち上げ時には、冷えた放熱管が熱で膨張する間に「カン、キン」という独特の金属音がする。欠点としては編成が長ければ最後尾に行くほど効きが悪くなるほか、暖気が行き渡るまで時間がかかることなどが挙げられる。均等に暖めるための調節も熟練が必要といい、ヒーターや空調設備を使用した電気暖房に置き換わっていった。が、蒸気暖房の客車は地方の小さな駅に停車すると車内がシーンと静まり返り、立ち上る蒸気と相まって独特の雰囲気に包まれる。 今年12月7日夜から翌朝にかけて、大井川鉄道で蒸気暖房をアピールポイントの一つにしたSL団体臨時列車が終夜運行された。同鉄道でこれまで走った終夜運行列車は暖房非対応の電気機関車がけん引したため、乗客は時に寒い思いを強いられていた。しかし今回は初の旧型客車、終夜運転にSLけん引、蒸気暖房を加えた4点セット。客車3両分、募集した50人の枠は発売後3分で完売したというが、筆者は運良くチケットを手に入れることができた。