微生物が電気をつくる「燃料電池」その実力と可能性とは?
THE PAGE
太陽光や風力などのように、新しいエネルギー源を模索する動きが進んでいるが、生物の力を借りた電気エネルギーがある。「微生物燃料電池」だ。微生物の働きによって電気を作る装置のことで、目下、大学などで研究が進められている。すでに実用化につながるような成果も生まれているという。微生物燃料電池の研究に約10年以上たずさわる東京薬科大学生命科学部 生命エネルギー工学研究室の渡邉一哉教授に、この電池の仕組みや研究の現状などについて聞いたところ、話は微生物の底知れない可能性にまでおよんだのだった。
「電流生成菌」は酸素なしでも有機物を分解
研究室の机の上に、液体が入った透明の容器がある。液体の中には板状のものが入っており、液面の上に突き出した板の上部にはリード線が接続されていた。容積は、だいたい1リットルくらいだろうか ── これが、初めて目にした微生物燃料電池の実物だった。 「研究を始めて約10年、物になりそうなところまで来ています」と渡邉教授は説明する。 微生物燃料電池とは、微生物を使って、有機物を電気エネルギーに変える装置のこと。この場合、「燃料」とは有機物のことを指す。微生物には、電流生成菌と呼ばれる微生物が使われる。代表例はシュワネラ(Shewanella loihica PV‐4)で、2000年前後に研究成果が発表されはじめてから、この分野の研究が活発化したという。 電流生成菌の話を聞いた時、渡邉教授は、「次はこれだ、と思いました。限りある化石燃料の代わりにクリーンエネルギーが必要とされる中、微生物燃料電池ならこの流れに貢献できると考えました」。海洋バイオテクノロジー研究所時代の2004年前後に研究を開始。以来、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授などを経て、東京薬科大学教授となった現在は、他の研究機関や企業とともに、微生物燃料電池の実用化に向けた共同研究にも取り組んでいる。 微生物燃料電池は一体どのような仕組みで発電するのだろうか。これについて、渡邉教授は、生物の「呼吸」と比較して説明してくれた。 わたしたちは、ご飯のような有機物を酸化分解してエネルギーを得ている。この酸化分解の際には電子が発生するが、それらは呼吸によって体内に取り込んだ酸素に渡される。だから、酸素がなければ電子を渡すことができず、有機物からエネルギーを取り出す流れが止まってしまう。