富裕層増加がロンドンに与える光と影。ラグジュアリーとアートの蜜月は続くのか?
アート都市としてのロンドンの存在感を今後も維持できるか
ウォルポールの報告書は、現在活動しているアーティストへの支援をないがしろにすることのリスクについても触れている。この点について意見を求められた文化部門の専門家や財務コンサルタントは、公的資金の削減や芸術教育の縮小により、ロンドンがクリエイティブ産業の労働力を維持できなくなりかねないという見方を示した。 昨年のある報告書では、ロンドンのアーティストが経済的な窮状にあることが示された。それに関して英ガーディアン紙の取材を受けたロンドン文化・クリエイティブ産業担当副市長のジャスティン・サイモンズは、アーティストのスタジオスペースが失われている原因はジェントリフィケーション(都市の富裕化現象)にあるとして、こう述べている。 「ロンドンをはじめ、活気のある文化的生活が営まれている都市では、私たちみんなが大切に思っていることの多くが十分な保護を受けていません」 また、2023年のフリーズ・ロンドン開催時にファッション専門誌WWDの取材を受けたフリーズのサイモン・フォックスCEOは、フリーズはロンドン市長と協力してロンドンアート界のエコシステムが抱える課題に対応し、「ヨーロッパにおける文化首都としての優位性」を維持するための支援を行っていると強調した。ちなみに、フリーズの親会社エンデバーはロサンゼルスが本拠地だが、過去10年にわたり、フリーズ・ロンドンのプレビュー期間にテートの作品購入を援助している。 最近アート界では、ロンドンが今後もアートハブの地位を維持できるかが話題の中心になっている。10月はフリーズ・ロンドンの翌週にアート・バーゼル・パリが開催され、両者の対決の様相を見せたが、アーティストやディーラー、市場アナリストの間ではロンドンの重要性が低下つつあるという見方が広がっている。 フリーズ・ロンドンのプレビューでは、ナイジェリア系イギリス人のアーティスト、インカ・ショニバレがニューヨーク・タイムズ紙の取材に応じ、1990年代から2000年代初頭にロンドンの現代アートシーンを盛り上げたエネルギーが、今では弱まっていると語った。アーティストがスタジオの家賃を払い切れなくなり、徐々に街から追い出されるようになっている影響は致命的だと考えるショニバレはこう嘆いた。 「業界は停滞し、ロンドンは多くのものを失いつつあります」 一方、ウォルポールの報告書作成のために取材を受けたフリーズの共同創設者、マシュー・スロットオーバーは、売上高や来場者数で競合関係にある他の都市に比べ、ロンドンはアート鑑賞者の層が幅広いとしてこう反論した。 「最近、ある人がこう言いました。ロンドンのアート界における重要なプレーヤーは500人だが、アートに興味を持つ人は50万人いる。一方、ニューヨークには重要プレーヤーが5000人いるが、それで終わりだと」(翻訳:清水玲奈)
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