「1.9兆ドル」はやり過ぎ? 米国の経済対策はどれだけすごい規模なのか?
米国のバイデン政権が打ち出した追加経済対策を盛り込んだ新型コロナウイルス対策法案がアメリカの下院で可決されました。この追加対策をめぐっては財政出動の巨額さが話題を呼んでいます。それくらい大規模なものなのでしょうか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【グラフ】異常値ともいえる好調な米国消費 リスク要因は何か?
景気加熱とインフレ進行懸念
米国では総額1.9兆ドル(約200兆円)、米国のGDP(国内総生産)比3割近くに相当する超大型景気対策の導入が間近に迫っています。今後の協議次第で対策規模は小幅に減額される可能性はありますが、柱となる一人あたり1400ドルの給付金、週400ドルの失業保険上乗せ給付(期限は8月末)は成立の公算が大きいと考えられ、これらが米国経済のさらなる加速に貢献しそうです。 もっとも、直近ではワクチン接種が進展し、経済活動正常化への道筋が開けつつあることもあり、この対策規模をめぐっては「やり過ぎ」を指摘する声も上がっています。長年にわたって民主党政権の政策立案を支えてきたサマーズ氏(現ハーバード大学教授)は景気の過熱とインフレ高進に警鐘を鳴らしています。
昨年の給付金支給による“異常値”
やり過ぎ感すら漂う今回の景気対策がどれほどの規模であるかは、以下の2つのグラフを見ると分かりやすいでしょう。図1は、米国のマクロの家計収入を前年比で見た変化率です。1月時点で、政府からの支援などを除いたベースの家計収入(≒給与収入)はようやく前年比ゼロ%近辺を回復したに過ぎませんが、給付金などを含んだ全体の収入は、一人あたり600ドルの給付金(昨年末に決定、1月に支給)によって前年比+13.1%と急増しました。 この伸び率は(コロナ禍前の)過去数年のレンジ上限をはるかに上回る”異常値”とも言うべき数値です。コロナ禍によって経済活動は縮小を余儀なくてされているものの、政府からの手厚いサポートが大きく貢献し、家計の収入は顕著に増加しています。
図2で視覚的に家計収入の水準を確認すると、1月(点A)は昨年春(一人あたり1200ドルの給付金&週600ドルの失業保険上乗せ給付急により急増)を上回っています。既にコロナ前と比べ収入が飛躍的に伸びていることが分かりますが、信じ難いことに、ここからさらに1400ドルの給付金と失業保険の上乗せ給付が加わることになりそうです。 イエレン財務長官は「景気対策が不十分であれば、雇用と経済の回復は遅れる恐れがある」として、景気対策が小さすぎるリスクに言及していますが、一方で上述のサマーズ氏のように大きすぎる場合のリスクを指摘する声が上がってくるのもうなずけます。
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