「ホモ・ヒストリクスは年を数える」(番外編・下)~新元号「令和」決定~ 移動する文化の中心
「東の時間」と「西の時間」の邂逅
新元号発表に対する外国の新聞やテレビの反応であるが、私が一番良いと感じた英語表現は、4月1日のロンドン・タイムズ電子版の“Auspicious Harmony“という訳語であった。Auspiciousは、幸先の良い・運の良いといった意味で、「令和」の訳としてふさわしいと思った。 ただ、4月3日までに外務省が“Beautiful Harmony“という訳語を正式に決定したので、今後はこの英語表現が使われることになると思われる。 中国では、人民網北京に掲載されていた記者会見での、報道官に対する質問自体が興味深かった。「日本政府は今日『令和』という新年号を発布したが、これに対する中国政府の論評は?」「報道によると、これまでの日本の年号は、皆、中国典籍からでしたが、『令和』は、日本の典籍から初めて選ばれました。今回の日本のこの変化を中国政府はどのように見ていますか」――。また、台湾紙・聯合報(電子版)の記事も興味深かった。「日本が1日に公布し、5月に新天皇(新日皇)が即位後使用する年号が『令和』と決まった。新時代の開始を象徴するものである」 私が興味を持ったのは、いずれも年号という言葉が用いられている点だ。中国語には、元号という用語がないので、年号という表記に置き換えている。これは、元号という用語が日本独自のものであるためだ。中国で生まれ、東アジアに広がった年を数えるシステムである年号紀年法は、いわば「東の時間」といえる。しかし、その「東の時間」を本来の形で使用しているのは日本だけになってしまった。 報道によると、フランシスコ・ローマ法王が今年11月に来日する予定のようだ。法王来日は1981年の故ヨハネ・パウロ2世以来、38年ぶり2度目となる。来日が実現すれば、天皇との面会が行われるであろう。日本の天皇は、元号という時間の象徴であり、ローマ法王は西暦という時間の象徴だ。この二人の面会は、紀年法という視点から言えば、まさに「東の時間」と「西の時間」の邂逅といえるだろう。 著者紹介:佐藤正幸(さとう・まさゆき)1946年甲府市生。1970年慶應義塾大学経済学部卒。同大学大学院及びケンブリッジ大学大学院で哲学と歴史を専攻。山梨大学教育学部教授などを経て、現在、山梨大学名誉教授。2005~2010年には、President of the International Commission for the History and Theory of Historiography(国際歴史学史及歴史理論学会(ICHTH)会長)を務めた。主著に『歴史認識の時空』(知泉書館、2004)、『世界史における時間』(世界史リブレット、山川出版社、2009)、共編著:The Oxford History of Historical Writing :Volume 3:1400-1800 , (Oxford University Press, 2012)など。