「ホモ・ヒストリクスは年を数える」(番外編・下)~新元号「令和」決定~ 移動する文化の中心
古代ギリシャ・古代ローマ文化を自文化のルーツに創り上げる
日本語で言うローマ字は、英語でラテン・アルファベット(Latin Alphabet)という。Latinとは、古代ローマ付近に居住していたラテン人のことであり、アルファベットは、ギリシャ文字の最初の二文字α(アルファ)とβ(ベータ)を指す。つまり、ラテン人が使用した文字体系であるローマ字は、ギリシャ文字に由来することを示している。 ローマ字で書かれた文章は、ちょうど東アジアで書かれた漢文と同じように、2000キロ以上離れた土地まで広がり、ローマ字文化圏を形成していった。ちょうど、東アジアにおいて、漢字文化圏が形成されたようにである。 ローマ字と漢字のように、私は文化圏を、言語でなく記述文字で分類することが一番有用だと考えている。 EUのメンバー国はすべてローマ字使用国である(ギリシャが例外でないのは、ギリシャ文字がローマ字の母体だからである)。彼らの使用文字からもわかるように、ヨーロッパ人はその文化のルーツを古代ギリシャ・古代ローマに求めている。古代ギリシャのソクラテスやプラトン・アリストテレス、古代ローマのキケロやタキトゥスに求めているのだ。 現在、西洋古典学が盛んな国は、イギリス・フランス・ドイツだ。これらの国は、古代ギリシャ・古代ローマの文化の中心地であるアテネやローマから遠く離れており、古代ギリシャ・古代ローマの時代は辺境の地であった。 しかし、ルネッサンス以降、彼らは意識的に、古代ギリシャや古代ローマに、自分たちの文化のルーツを求めた。その古典に注釈を付けて理解可能なものとし、大学には古典学部を設置して、自分たちの文化のルーツを確固たるものに創り上げたといえる。 文化の中心は移動するのである。現在、古典研究で使用されている言語は、ラテン語の語彙をもとにして作られたそれぞれの国語である英語・フランス語・ドイツ語である。 やはり、古典はみずから求めなければ手に入れることはできない。向こうからはやってこないのだ。