「腎臓のために水分を控える」は逆効果…心筋梗塞や認知症を招く「慢性腎臓病」を防ぐためにやるべきこと
クレアチニンとeGFRについて、もう一つ注意すべき点があります。それが、クレアチニンについて誤解している医師がいることです。 eGFRの計算式が完成したのが、2006年頃。割と最近のせいか、理解が不十分な医師が少なくないのです。 クレアチニンの正常値は、男性で0.6~1.0、女性で0.4~0.8。仮に、ある男性のクレアチニンの数値が1.2だとします。数値だけを見れば、正常値よりも多少高いだけと感じる人もいるでしょう。 しかしクレアチニンの数値が1.2だとしたら、eGFRは、50ml/分/1.73m2 ほどに下がっている可能性があります。医師に「若干高いけど、大丈夫」と言われて治療を受けなかった40代の患者さんが、60代になって改めて検査してみると腎機能が相当悪化していた――残念ながら、そうした事例はたびたび起きています。クレアチニンとeGFRの関係がだいぶ浸透してきたとはいえ、一部の病院などではいまだにクレアチニンの値を「誤差の範囲」として片付けてしまうようなミスが現実に起きてしまっています。 20年ほど前までは、腎臓病に効く薬がないといわれていましたが、研究が進んで、この数年で効果的な薬がどんどん開発されるようになりました。腎機能が低下した原因を改善したり、進行を遅らせたりできるようになったのに、いまだに「腎臓病に効く薬はない」と思い込んでいる医師もいます。そんな場合は、専門医のセカンドオピニオンを受けてください。きっと適切な治療法や、腎臓病の原因となる生活習慣の改善方法が見つかるはずです。 ■水分が足りないと腎臓が「酸欠」になる 腎機能を悪化させる主な要因が「糖尿病」「高血圧」「喫煙」「肥満」の4つ。糖尿病や高血圧は血管に障害をもたらし、タバコのニコチンは血管を収縮させて血流を悪くします。肥満は、腎臓に負担をかけてタンパク尿の原因になります。 この4つの要因は、生活習慣に気を配れば改善できます。禁煙して、適度な運動、減塩などに取り組めば、腎機能をよくしたり、維持したりすることは十分に可能なのです。 とくに50歳を超えたら、いままで以上に気をつけなくてはなりません。血管は加齢による動脈硬化で細くなってしまいます。そうなると血流の低下とともに、腎機能がどうしても衰えてしまいます。eGFRは50~60代から1年で0.8~1.0ml/分/1.73m2 ほど低下していきます。 冒頭で話したように、かつては衰えた腎臓を労るためにも水分を控えたほうがいいと考えられてきました。しかし、それでは、腎機能がさらに悪化してしまいます。 血管臓器である腎臓は、血液を濾過して尿をつくる際に、大量の酸素を必要とします。しかし脱水状態では、腎臓を流れる血流が滞り、血液が運ぶ酸素量も減ってしまいます。そうした脱水状態が続くと濾過機能が低下し、体内を流れる水分のバランスを保つのが難しくなります。脱水による酸欠で、腎機能が急激に低下する急性腎障害さえも引き起こしかねません。 それを防ぐうえで有効なのが、適度な水分補給。慢性腎臓病の診療ガイドラインでは1日に1~1.5リットルを目安に水分を摂取するように推奨しています。カフェインが含まれる緑茶やコーヒー、紅茶などには利尿作用があり、尿として出てしまうので、水や麦茶などで摂取するのがいいでしょう。腎機能が弱まったからこそ、積極的に水分を摂取すべきなのです。 ただし、注意点があります。eGFRが30ml/分/1.73m2 以下の人は、逆に水分摂取を制限しなければなりません。腎機能が著しく低下すると、水分を排出できなくなって尿の量が減り、飲んだ水分が体内にたまり、むくみが起こったり、血圧が上昇したりします。さらに症状が進行し、腎不全と診断されたら、腎臓の機能はもとに戻りません。腎臓が壊れると週3回、4~5時間かけて人工透析を受ける必要があります。 そうならないためにも、意識的に水分補給をして、腎臓の酸欠に注意し、腎機能を守ってほしいのです。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年12月13日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 柏原 直樹(かしはら・なおき) 川崎医科大学高齢者医療センター病院長、同大学名誉教授 1998年に同大学腎臓・高血圧内科学講座主任教授に就任、2009年に同大学副学長を併任。23年9月から同大学高齢者医療センター病院長。 ----------
川崎医科大学高齢者医療センター病院長、同大学名誉教授 柏原 直樹 構成=山川 徹