双子育児に忙殺される私と、「ギャンブル依存症」の夫。病院で「旦那さんが治らないのは発達障害が原因だから」と言われて【医師監修】
子どもが三人が生まれたあとに、夫が発達障害だと分かって
遠藤さんは、結婚した当時は発達障害について何も知りませんでした。そして夫が発達障害だと分かったのは、子どもが三人生まれた後。 「当時は何か変だなと思いつつも離婚とかは全く考えていなくて、夫の『もう俺、変わるよ』、『もう二度としないよ』という言葉を間に受けて信じてしまってた時期もありました。それで3人子どもを産んだのですが、生まれた後に夫が発達障害だと分かりました。やっていくしかないという感じでした。」 本編では、発達障害由来のギャンブル依存症と診断された夫と、離婚したいと思いつつも寄り添い、もがく遠藤さんの姿をお届けしました。 専門家である岡田先生の解説をお届けしたのち、後編「夫に翻弄される遠藤さんを襲った、さらにショックな出来事。優等生だった長男が引きこもりに」に続きます。
【岡田俊先生のここがポイント!】
依存症というと、アルコールや覚醒剤や麻薬、市販薬や向精神薬を含めた「物質」への依存が思い浮かぶかも知れません。 しかし、最近では、ゲームやインターネット、ギャンブルといった行為(プロセス)への依存が注目されています。2018年に「ギャンブル等依存症対策基本法」が成立していますが、ここでの「ギャンブル等依存症」の定義は「ギャンブル等(公営競技、パチンコ屋に係る遊技その他の射幸行為)にのめり込むことにより、日常生活又は社会生活に支障が生じている状態」とされています。 しかし、その延長線上には、いわスクラッチカード、クレーンゲーム、ゲームカードの拡張パック、ガチャなどがあるわけです。ギャンブルは、それに無縁な人には、なぜそんなものに手を出してはまるのか、というふうに見えてしまうのですが、ギャンブルにはまる心性は誰にだってありますし、インターネットで馬券や舟券が買える現状では、依存の現状が見えにくく、問題が大きくなっています。 最初は射幸心かもしれません。また、苦しい気持ちの時に賭けをしてしまう人もいます。その後は、損失を埋めるためにより大きな賭をしてしまったり、大きな損失を出してしまいます。その損失を埋め合わせるためには、人にお金を借りたり、そのために嘘をついたり、手をつけては鳴らない金に手をつけてしまうこともあります。 しかし、減らそう、やめようと思っても、止められないのです。こうなると日常生活に支障のある状況であり、専門家の助言が必要になります。当事者会や家族会もあります。また、借金などの債務整理に関連する法律の専門家の助けを得ることも必要です。 ギャンブル依存の背景に、うつ病や双極症などの精神疾患、発達障害があることはあります。苦しみを紛らわすことが賭けの引き金になっていたり、損失を出しているときにそれを穴埋めするために、より大きな賭けをしやすかったり、その行動に固執しがちであったりするなどの特性があるからです。 しかし、これらの病気とギャンブル依存を直結するのは正確ではありません。これらの精神疾患や発達障害のある人は、自分の困ったときに相談をして助けを求めたり、さまざまな問題解決の方法を模索することが苦手だったりします。ですので、うまく相談、支援に繋がらない結果、ギャンブル依存が急速に進んだり、問題が大きくなってから露呈するケースが多いことにも留意が必要でしょう。 この方の場合には、ギャンブル依存専門の医師に、発達障害特性に応じたアプローチが必要と判断されています。特性に応じた説明の仕方や治療計画の策定、これからの生活の形作っていくということが必要になるからです。ギャンブルに変わる日常生活をどのように形作っていくのか、日常生活で生きづらさを抱えたとき、どのように対処すればいいのか、その一つ一つの困りごとを扱っていくことが大切です。 ギャンブル依存は経済的な損失を伴いますし、そこにご家族の発達障害の支援が加わると、キャパを超えてしまうと言うのが実情でしょう。 旦那さんの『もう変わる』、『もう二度としない』というのも、そのときの気持ちとしては真実です。ただ、依存状態にあると、もはや自分だけの力では変えられないのです。それどころか、そのためには嘘をつくことさえ止められません。 ここは発達障害というより依存の問題です。ただ、そのようななかで傷ついた家族に、いたわりの様子やことばがうまく出てこなかったり、それを支援への希求へとうまく繋げられないのは発達障害の方のうまく立ち回れないところです。本人、家族共に、支援者の力を十二分に活用することが大切です。
岡田俊先生プロフィール 奈良県立医科大学精神医学講座教授 1997年京都大学医学部卒業。同附属病院精神科神経科に入局。関連病院での勤務を経て、同大学院博士課程(精神医学)に入学。京都大学医学部附属病院精神科神経科(児童外来担当)、デイケア診療部、京都大学大学院医学研究科精神医学講座講師を経て、2011年より名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科講師、2013年より准教授、2020年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長、2023年より奈良県立医科大学精神医学講座教授。
ライター 渡辺陽