一度は閉じられた河口堰を“開門”、汽水域の生態系を取り戻した韓国・洛東江、政治と行政を動かした住民の声
1995年に運用が始まった長良川河口堰について、開門に関する検討を2011年から続けてきた愛知県が、先進事例のある韓国を訪れる。同行取材が可能だと知らせが飛び込んできた。 【写真】「なんですかこれは?」と思わず声が出た奇観、地山に荷重をかけない地すべり対策として作られた愛知県・設楽ダムの工事用道路 韓国といえば、李明博政権が2012年までに4大河川(漢江・ナクトゥンガン・錦江・栄山江)の大規模開発を行ったことが有名だ。 ところが、2022年になると、海と川が交わる汽水域の生態系を取り戻すために、釜山市を流れる洛東江(ナクトゥンガン)の河口堰を開門する政策転換が起きた。この10年で何が起きたのか。 長良川とナクトゥンガン、2つの河口堰における取り組みを一挙に知るチャンスだ。釜山へと飛んだ。その取材を振り返ると、今回、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の「非常戒厳」後に電光石火で起きた韓国政治と市民運動の熱さに共通することが、河口堰を巡っても起きていたと実感する。 ■ 「母なる川」ナクトゥンガンを遮断した河口堰 8月28日、金海国際空港(釜山市)で、愛知県の「長良川河口堰最適運用検討委員会」委員5人と県職員3人と合流した。この検討委員会は、2011年2月に初当選した大村秀章知事が、選挙で「長良川河口堰の開門調査」を公約に掲げていたことに端を発する。2012年に愛知県に設置された会議体だ。 一方、空港で出迎えてくれたのは、韓国の非営利組織「洛東江汽水域復元協議会」(以後、協議会)。カン・ホヨル共同代表は、視察先へ向かうバスでこう語った。 「韓国には山川海あり、国河川が16河川ありますが、その中で最大の川がナクトゥンガンです。総延長500km超、流域人口は1300万人。700万人がそこから水道水を得ています。母なる川です。朝鮮王朝時代は川沿いに学者たちが勉強する書院(ソウォン)がたくさんありました。世界の四大文明が川にあるように、ナクトゥンガンは文明の発信地なのです」 淀みない説明で、ナクトゥンガンの特徴が頭に入ってくる。日本最長の川は信濃川(367km)だから、その規模感がわかる。カン代表の説明はさらに続く。 「ナクトゥンガン河口域には、アジアで最も大きな鳥がやってきます。河口堰を開けることは重要なことなのです。明日、ご案内するナクトゥンガン河口エコセンターのある中洲の乙淑島(ウルスグド)には、3000~5000羽の白鳥が冬にシベリアから飛来します」