「今までで一番思い入れがあるのは、50歳代の頃に詠んだ〈夫が掌に摘みてのせたる一粒のルビーにまさる野苺の赤〉。当時、仕事で忙しく余裕がなかったが、山道を夫と散歩している際に差し出されたいちごが、私の誕生石よりもキラキラとしていて、自然に触れる喜びやそのときの幸せな気持ちを歌に込めた。過去作を読み返すと、写真よりも鮮明に当時を思い出すことができるのも魅力だ」

　――県歌人協会は来年で創立50周年を迎える。展望は。

　「協会の会員数は約90人で高齢化が深刻だ。協会に所属する結社は9社あるが、ほぼ活動休止に近い社もあり、従来の短歌結社は存続が危ぶまれつつある。対面での歌会では、様々な考えを持つ人が互いに講評し合うことで考えが深まったり、世間話の中から歌のタネがみつかったりすることもある。俵さんの作品でも口語調と文語調の両方が使われているように、基礎を学ぶことで表現の幅も広がる。今般の短歌ブームで興味を持った多くの人が、気軽に歌会に参加できるような環境を整えていきたい」

　「短歌結社による歌会の他にも、市民講座などがある。昨年4月から初心者らが集まって活動を始めた『おしゃべり短歌会』（小城市）などもあるので、気軽に足を運んでほしい。協会では、創立50周年に向けて5年ぶりとなる合同歌集を発行するほか、歌集『1／125秒』（現代歌人集会賞）で知られる歌人・永田淳さんを招いての講演会を計画している。一人でも多くの人に短歌の魅力を知ってもらえるように活動していきたい」

◆かくもと・ひさこ＝佐賀県太良町出身。長崎県立女子短大（現在は閉校）で家庭科の教員免許を取得し、佐賀県内の学校で8年間教職を務めた。現在、日本歌人クラブ県幹事、短歌結社「ひのくに」（佐賀市）の歌誌編集委員で、2017年1月から読売新聞佐賀県版「よみうり文芸」の選者。皇居で行われる「歌会始の儀」の陪聴者に選ばれたことも。主な受賞歴はNHK学園「短歌友の会」年間選者賞（2015年）、県歌人協会総会短歌会の最高賞・県知事賞（20、22年）。焼き物が好きで、「窯元を訪ねて陶芸家と会話をするのが楽しみ」。