EVかFCVかじゃない、2050年のトヨタ 寺師副社長インタビュー(4)
“EVかFCVか、対立軸で分けても仕方ない”
池田:だから電動化の技術が多様であれば、それに対応幅が広い分だけインフラエネルギーの設計の自由度が上がると。例えば、今トヨタが横浜・川崎地区で実験している「ハマウィング」がありますよね。風は都合のいいときだけ吹いてくれない。要らないときにも吹くと。そこでできた電気をプリウスの中古バッテリーにためて、で、電力を安定させながら水素をつくっておく。夜間みたいな電力需要が少ないときに風が吹いても水素にして保存しておける。あれはバッテリーに電気を貯めるのと同じように、エネルギーを水素に置換して保存しておく方法だということなんですね。 寺師:そうですね。だから、さっき言ったみたいに、EVなのかFCVなのかっていう対立軸で分けて考えるとどっちに優劣があるのみたいになるんですけど、基本はバッテリーで貯めておくのか、それを水素で貯めておくのか。だから出口のところの使い方に合わせたような貯蔵の仕方もあるのかなと思うんですよね。 池田:おっしゃるとおりですね。で、そうすると、やっぱり今一番水素に向いていると思われるのは商用車じゃないかという話があって。これは、乗用車みたいに出た先々に水素スタンドが必要なくて、特に長距離のトラックに関しては、スタートするところも止まるところも決まっていると。そこにインフラが整っていればなんの問題もないし。しかもああいう大型機材っていうのは、ドライバーは交代にして車両自体は24時間働かせたい。そうするとEVみたいに充電に何時間って掛かってしまうものはちょっと都合が悪い。5分で充填できる水素であればドライバー交代してまたすぐ出ていける。この商用車の展開っていうのは今どんなふうに進んでますか。? 寺師:僕たちがもともとMIRAIをFCVでつくった理由は、アメリカのZEV規制(※文末に補足説明)にミートするためでした。まずは乗用車でつくりましょうってスタートしているんですよね。この先の展開の1つは、おっしゃったとおり商用車の話があります。で、この商用車も、大口のユーザーさんってあまりいないんですね。どちらかというと、僕たちがよくお話いただくのは、「ごみ収集車をFCVでつくってくれませんか?」みたいな、要は深夜とか早朝働くことが多いと、静粛性が魅力なんです。しかも24時間動かしたいんですよっていうニーズからすると、いわゆるFCのほうがいいですよねとか、夜間道路工事していると、この電源とかもディーゼルでがんがんやってたらもう近所迷惑だと。だからそれをFCでやってくれないかっていう、そういう小口のアイデアとか要望はものすごいたくさんあるんですよ。 MIRAIのように乗用車の1製品をつくって、それをたくさん売ろうとするとインフラ整備の話が出てきて、結構大変なので、僕たちはやっぱり乗用車と商用車のコンビネーションがいいんじゃないかと。商用車も、バスとかタクシーとか。タクシーだったら、いわゆるLPG(液化石油ガス)のスタンドの数ぐらいあれば、現実にビジネスが回っているわけですから。ある程度ルートが決まっているクルマは楽ですよね。 稼働距離が短くて夜使いませんって言うならEVでもいいでしょうけれど、さっき言ったように、24時間動かしたいってことならFCっていう、そういう選択肢になってくるはずです。だから商用車もFCなのかEVなのかっていう二択でどっちという議論ではなく、それぞれの必要な出口があっていいんではないかと。 池田:だからフルラインで、ニーズに合わせた最適なものがいつでも用意できるっていうことなんですね。