EVかFCVかじゃない、2050年のトヨタ 寺師副社長インタビュー(4)
寺師:できますよね。ちょっと話が違うんですが、僕は今一番やりたいのは、FCVも、EVもそうなんですけど、最近日本で災害がものすごく多いんですよね。この間、北海道のブラックアウトなんかもそうなんですけども、停電したときに電気がある、夜間灯りがつくっていう安心感は大切です。プリウスのPHVなんかも家庭用なら良いんですけど、大勢の電気は賄えない。たぶん避難所で避難されている方々の灯や空調を考えると、ちっちゃいクルマじゃ駄目なので、バスぐらいのサイズがいいねと。じゃあ、FCVの大型バス「SORA」っていうクルマを今やりだしましたけど、皆さんSORA買ってくれますかって言ったら、それはちょっと厳しいので。 池田:あれ、1億円ぐらいでしたっけ。 寺師:そのうちもっと安くしますけど、今はそれぐらいです。 池田:普通のバスで2000万ですからね。 寺師:だから例えば、マイクロバスの「コースター」ぐらいのサイズでそういうFC、もしくはEVでもいいと思うんですけど、つくりますと。MIRAIの補助金をいつまでもずっと続けていただくのでは、あるいはそういう中で災害対策だとしても数をどんどん増やすにはやっぱり心苦しいところがあるので、例えばFCのコースターのようなサイズで、普段はお客さんを運ぶとか従業員を運ぶとか、そういうふうに使っていただいて、災害が起きたら、FCVのコースターが必要な場所に駆け付けて電源車になる。例えばコンビニの横に付くとコンビニの営業ができる。そういう困ったときへの備えには、コースターのサイズのFCだったら良いですよね。 池田:そうすると全国を見渡して、電源車をうまくグリッドして置いていくっていう設計はたぶん必要で。かなり自治体であるとか国と一体になって綿密に設計を立てていかないといけないですね。 寺師:そうですよね。だから自治体の方々とお話ししていると、SORAはちょっと買えないけど、コースターぐらいだったら欲しいですよねと。企業の方でもそうおっしゃってくださったり、トヨタの販売店の皆さんも1台ぐらいならみんな持っていて、困ったらみんなそれを使えばいいよねっていうようにも言ってくださっているし。 池田:そういう前向きな流れの中で、じゃあ環境の問題を考えつつ、社会貢献をしていくために、地域や使い方に合わせた最適なものをソリューションとして渡せる状態をつくるというのがトヨタの電動化プログラムの目標なんですね。 ※ ※ さていよいよ次はロングインタビューの最後。トヨタはFCVが空気清浄機の様に汚染された大気を吸って浄化すると言う。トヨタの言うマイナスエミッションについて聞いてみる。 【キーワード】…ゼロエミッションビークル(ZEV)規制 アメリカ・カリフォルニア州に端を発する自動車排気ガスの規制。一定の生産数を超えるメーカーは、州の指定するZEV規定に該当する車両を一定比率以上販売しなくてはならないという規制だ。クリアできない場合多額の罰金を支払うか、もしくは、規制を達成したメーカーの余剰枠(クレジット)を買い取るかしかない。 2018年からこのZEV規制のルールがさらに厳格化されるとともに採用する州が増え、北米を主戦場とするメーカーにとって喫緊の問題となっている。 以下の一覧は2025年までの規制のロードマップで、パーセンテージが示すのはメーカーの全販売台数における環境対策車のトータル比率、カッコ内は左がZEV(電気自動車と燃料電池車)、右が準ZEV(プラグインハイブリッド)となる。例えば2020年には、9.5%の低燃費車を売らなくてはならない。全てZEVであればより望ましいが、3.5%まではPHVをカウントできる。ただし、3.5%を超えた分はカウントされない。 2018年 4.5%(2.0%・2.5%) 2019年 7.0%(4.0%・3.0%) 2020年 9.5%(6.0%・3.5%) 2021年 12.0%(8.0%・4.0%) 2022年 14.5%(10.0%・4.5%) 2023年 17.0%(12.0%・5.0%) 2024年 19.5%(14.0%・5.5%) 2025年 22.0%(16.0%・6.0%) ---------------------------------------- ■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある