なぜカーリング43歳の“最強”リザーブ石崎が涙するメンバーに「ちゃんと銀メダルを喜ぼう」と声をかけたのか
イギリスの4人がベストショットを繰り出し続けた結果として、日本の特にサードとフォースが難しいショットを強いられる悪循環から抜け出せなかった。銀メダルを手にした喜びよりも悔しさを募らせる4人へ、表彰式後にこんな言葉が飛んだ。 「銀メダル以上に、世界一のコミュニケーションを見せられたと思う。だから、この銀メダルはちゃんと喜んだ方がいいよ」 声の主はロコ・ソラーレを裏方で支えたリザーブの石崎琴美だった。 2002年ソルトレークシティー、2010年バンクーバー両五輪に出場した石崎は、2013年5月にチーム青森を離脱した後は第一線を退き、日本が悲願のメダルを獲得したイギリスとの3位決定戦を含めて、平昌五輪ではテレビ解説を務めていた。 しかし、ロコ・ソラーレのキャプテンから代表理事に転じた本橋麻里さんに粘り強く誘われ、2020年9月に加入。豊富な経験をロコ・ソラーレに与えてきた。 「この4人じゃなければ、私はチームに入っていなかった。私のなかでは銀メダル以上の喜びを持って表彰台に立ちました。素晴らしい経験ができて、本当に幸せです」 万感の思いを語った石崎を、4人は「ことみちゃん」と呼びながら畏敬の念を注いできた。強敵スイスを撃破した18日の準決勝では「ことぶら」がチームの合言葉になった。決勝進出を決めた後に、石崎が嬉しそうに明かしてくれた。 「ことみちゃんを手ぶらでは帰させない、という意味みたいですけど」 誓い通りに43歳1ヵ月の石崎は、ソチ五輪のスキージャンプのラージヒル個人で銀、同団体で銅メダルを獲得した葛西紀明の41歳8ヵ月を抜く、日本の冬季五輪史上で最年長メダリストになり、4人とともに立った表彰台で思わず涙ぐんだ。 そして大会の最後にかけた金言が、4人のなかで銀メダルへの喜びを増幅させた。例えば数々の名言で知られる知那美は、歓声と笑顔、そして悔しさと嬉しさの両方の涙が何度も交錯した11日間を振り返りながら、こんな言葉を残している。 「この試合の負けですべてを否定してしまうのは、もったいないなと思っています。ことみちゃんがそう言ったので、喜びの涙ということにしますね」 藤澤も続いた。試合のたびに右手の甲にテーマを書き込んできたスキップは、イギリスとの決勝で『MOVE TOGETHER TRUST YOURSELF』を選んだ。一緒に進もう、お互いを信じて――に込めた思いも含めて、気持ちを切り替えてこう語った。 「今日の試合は納得のいくものではなかったけど、それ以上にこの舞台に全員で立つことができて、大会を通して感謝の気持ちを表すことができました。このチームを心から誇りに思うとともに、このメダルは私たちだけじゃなくて、日本のカーリング選手であり、支えてくれるカーリング関係者の全員でつかみ取ったもの。五輪で金メダルを取ることは笑い話ではないし、夢でもない。日本のカーリング界にとって大きな一日でした」 平昌五輪で銅メダルを獲得した翌日。スウェーデンが韓国を破った決勝をスタンドで観戦しながら、決勝を戦えない悔しさと寂しさが銀メダルへの出発点になった。 「やっぱり誰一人として満足してない。私たちはまた今日、ここから始まります」 ロコ・ソラーレ全員が抱く思いを「笑うということは、あきらめないという決意」を座右の銘にする知那美が笑顔で代弁した。悔し涙に代わって輝いたとびっきりの笑顔とともに、ロコ・ソラーレの戦いは新たなステージへと入っていく。
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