「実家の片づけを拒む90代の母」「免許返納を渋る70代の父」“高齢の親の困った”に【ナッジ】で解決する方法を行動経済者が解説「認知バイアスの特性を利用する」
実例2「90代の母親がデイサービスを嫌がるので困っています」(60代女性)
「足腰が弱り、歩くことがおぼつかない90代の母。デイサービスになかなか行きたがりません。なじみの美容院に行くことは大好きなのですが…」 対処法『社会的ナッジ』で第三者を交える 「この問題を解決するには、美容室は新たな一歩を踏み出した時のご褒美にするのがよさそうです。 『近いうちにデイサービスに話を聞きに行こうと思っているから、デイサービスの帰りなら、美容院に送ってあげてもいいよ』という提案なら、お母さんも受け入れやすいと思います。 このように『外出したら、美容室』という流れをわかりやすくすること(顕著性ナッジ)で、お母さんもデイサービスに行く一歩を踏み出しやすくなります。 ここで注意すべきなのは『美容院は最後にすること』です。お母さんは、当日、『先に美容院に行って』と言い出す可能性もあります。もし先に美容院に行ってしまったら、現状維持バイアスが働き、『このまま帰る。デイサービスには行かない』と言い出す可能性が高いのです。だから、美容院の前を通らずに、真っ先にデイサービスセンターに向かってくださいね。 美容院はお母さんにとってソーシャルキャピタル※のようです。せっかくのソーシャルキャピタル、ぜひいい形で活用したいですよね」 ※ソーシャルキャピタル=社会関係資本、人との関係性や社会との繋がりを資本として扱う考え方。
実例3「弟が母親の介護を手伝ってくれない」(50代女性)
「『お母さんの介護は男よりお姉ちゃんのほうがいいと思う』と、弟が介護を手伝ってくれません。私もパートをしているので、自分の家と両親の家の世話と仕事で疲れ果てています。もう少し弟に協力してほしいのですが…」 対処法「承認欲求を満たすお願いの仕方を試してみる」 「『介護は女性が担うもの』というジェンダーバイアスは根深いですね。これまでの成り行き上、女性が介護を担う状況になっただけなのに、未来永劫女性だけが介護を背負わされるのは、あまりにも女性へのリスペクトが欠けているのではないでしょうか。 介護にはいろんなタスクがあります。本人のニーズを把握し、役割分担を決め、それを指示するのも重要な介護であり、これらも含め女性が全部行う必然性はないはずです。 さて、このケースでは、『介護をもっと手伝って』とあいまいな頼み方をすると、『介護は女性の仕事』といういつも通りの回答が返ってくる可能性が高いです。ここは明確な行動指示をするのがよいでしょう。 『あなたは顔が広いから、今月中に市内のデイサービスを探して、見学の日程調整をしてね』『あなたは経理が得意だから、支払関係をお願いできるかな?』など、具体的に提案すると、引き受ける可能性が高まります。これを『具体化ナッジ』と言います。 弟さんは『これまで姉が介護をしていて問題がなかったので、自分が下手に手出しをしないほうがいい』と様子見しているかもしれませんし、介護にかかわらないことを心苦しく思っている可能性もあります。 自分の得意分野を認められたのであれば断る理由もなく、結果的に弟さんは『自分は何も介護をしていない』という罪悪感から逃れることができ、一歩前進できそうです」
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