なぜ「親の会社を継ぐ」ことは難しいのか…「現場からのやっかみ」だけでなく「子どもへの愛情」がギャップを広げる原因にも
親と子「広がる視野と経営感覚のギャップ」
親から子への事業承継の難しさで共通するのは、「ズレ」や「ギャップ」だ。 ブルーカラー経営者の親たちのなかには、「子どもには自分ができなかったことをたくさん経験させたい」と思う人が多く、ゆえに懸命に働き、教育面での愛情もめいっぱい注ぐ。 こうして親が頑張れば頑張るほど会社は成長し、同時に子どもの選択肢も増え、大学に進学できるようになるのだが、高齢になった親が自分の色が染みついた会社の将来を考えるようになった頃には、子は大手企業などで働く労働者に――。 結果、日本のものづくりにとって必要不可欠だった独自の技術もろとも消えていく会社が少なくない。 なかには、就職した企業を退職し、親の会社を継ぐため戻ってくる子もいる。 また、元々親の会社を継ぐことを前提に社会経験を積んだうえで戻ってこようとする人もたくさん存在する。 しかし、外で広い世界を見てきた子を待ち受けるのは、「視野のギャップ」だ。 小さな会社のなかでは、「外の常識」が通用しないもどかしさを味わうことがあるのだ。 高度成長期やバブル期に必死で働いてきたブルーカラーの親世代は、自分がこれまで培ってきたやり方や“腕”を信じる(しか信じない)傾向にあり、「体を動かすことこそ仕事」とする感覚が深く根付いている。 現場一直線でやってきたことで視野が狭かったり、現場以外の意識や知識に乏しかったりすることも少なくないのだ。 一方、デジタル社会の子世代は 、「いかに効率化できるか」を最優先に仕事をしている。無駄な作業や難しい作業を機械化することで、過酷な労働環境の改善、事故の撲滅、人手不足の解消をしようとする。 しかし、新しい技術の導入に抵抗がある親世代は、「現行で困っていないのにそんなものにカネをかけて導入する必要はない」と、拒否してしまうのだ。 実際、日本のブルーカラーでは総じてデジタル化が遅れている。 ブルーカラーの経営者が集まる講演会で、「現場でFAXを使っているか」というライブアンケートを取った時、スクリーンに投影された「はい」の数値が100%から動かなかった際は、一瞬装置が壊れたかと思った。