消費税は本当に社会保障に回るのか? 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
アベノミクスと矛盾する増税政策
しかしその時期は同時に「失われた20年」であったのも忘れてはなりません。安倍晋三首相が進めるアベノミクスは日本銀行に頼んで市場に大量の資金を流して、円安を誘引して、公共事業で刺激しながら輸出を促進するという図柄です。そんななか資金を吸い上げる増税をするのは少なくとも「アベノミクス的」には正反対の政策。楽観論の中心にある「個人消費は底堅い」も一部の富裕層(多くが高齢者)に引っ張られているとの見方があり、そうした人は増税前に高い買い物(代表が住宅)を済ませてしまいそうです。輸出高も円安に振れたのに2013年は伸び悩みました。 こうした「矛盾」を安倍首相も痛感していて2014年2月には総額5.5兆円の補正予算を成立させました。ただ中身は首相自身が本部長を務めた行政改革推進会議が効果を問題視し、14年当初予算案から消えたはずの事業が形を変えて復活するなど不可解な項目も。相変わらず公共事業頼り。この方法は「失われた20年」で散々使い回してうまくいかなかったばかりか、近年では建築業も機械化、IT化が進んで「事業を作ればつるはしとスコップをもった作業員がドンと集まって活気づく」といった風景は遠い過去です。 それでも対策をしないよりした方がいいでしょう。でもこれって何か変でないですか。対策が必要な理由は消費税を上げると景気が落ち込むから。ならば最初から上げないか、せいぜい1%ぐらいにしておけばよかったのに。どうもこの辺に景気を良くしたい安倍首相と、死んでも消費税を上げたい財務省と、景気は良くしたいけど財政悪化で毎月7兆円も出して市場から7割も買い入れている国債が暴落したら目も当てられない日本銀行の3者によって作られた「落としどころ」のような気もします。 --------------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】