現役慶応ボーイの武藤嘉紀がプロ入り、覚醒した理由
念願のプロサッカー選手としての第一歩を踏み出して以降は、武藤のもうひとつの素顔が成長を加速させる。日本代表としてワールドカップ・ブラジル大会にも出場し、アギーレジャパンにも選出されたチームメイトのDF森重真人に対して、武藤は紅白戦などで果敢にドリブル突破を挑んでは跳ね返された。さわやかな笑顔が映える端正なルックスの内面に宿る負けん気の強さを、立石強化部長は「特に前線の選手が成長するためには非常に重要な要素となる」と目を細める。「本当に強気というか、物怖じしないというか。練習から闘争心を前面に押し出すタイプなので、その意味では戦える選手だと思います。まだまだ未熟な部分もありますけど、代表で積んだ経験を自信に変えればさらにひと回り大きくなるでしょうからね。非常に楽しみにしています」。 今シーズンから指揮を執るイタリア人のマッシモ・フィッカデンティ監督の下で、開幕から3トップの左でレギュラーに定着。臆することなくプレーする姿は、元日本代表MFで現在は解説者を務める水沼貴史氏の目にも留まっていた。「最近の日本人にはないスケールの大きさを感じさせる選手。ドリブルをしながらのフェイントが非常に大きいし、切り返してから強烈なシュートを放つこともできる。8月23日の浦和レッズ戦で左サイドからドリブルを仕掛けて、右にコースを変えてからスピードを落とすことなく右足を振り切って決めたゴールまでの流れは、武藤の魅力が凝縮されていた。スマートな選手が多くなってきた中で、プレーそのものが非常にダイナミックで、闘争心とエネルギッシュさも伝わってくる。これまでの日本人選手で誰に似ているのか、と言われればパッと名前が浮かんでこない。それだけ珍しいタイプと言っていい」。 成長途上ゆえに、課題もある。例えば決定力。ワールドカップで中断するまでの前半戦で13試合に出場して、決定機を多く迎えながら2ゴールに甘んじた。立石強化部長も「アグレッシブなところは評価できたけど、正直、けっこう外しているんですよね」と苦笑いを隠せない。武藤本人も乗り越えるべきハードルがあることを痛感したのだろう。加えて、中断期間中にテレビ越しに見たワールドカップでは、同世代のコロンビア代表MFハメス・ロドリゲス(レアル・マドリード)が大会得点王を獲得し、ブラジル代表FWネイマール(バルセロナ)も躍動した。 26歳で迎える4年後のロシア大会で、彼らと同じ舞台に立つために。立石強化部長はメンタル面でさらなる変化が生じてきたと感じている。「相手ゴールに向かう意識が、特にゴールという結果に対してさらに強くなった。ゴールまでのプレーは通用すると武藤も思っていたはずですけど、中断明けでゴールが増えた点に周囲からいろいろと評価をもらったことで、本人も自信を持ち始めた。自信があるかないかで、若い選手は全然違ってきますからね」。