小児科医が「子どもの性被害」問題を「父親にも知ってほしい」と思うこれだけの理由
子どもの性被害が「見えにくい」理由
子どもの性被害が、実情よりも表面化しにくい理由はいくつかある、と今西先生。 「まずは子どもならでは、の事情です。性被害に遭った子どもの中には自分が何をされたのかわからない、という子も少なくありません。幼い子どもはもちろんのこと、学校に通う年齢になっても海外に比べて遅れた日本の性教育では具体的に性行為については触れられていないため、あるアンケート(※1)では「挿入を伴う」被害に対し、すぐに『これは性被害だ』とは認識できなかったという回答が、約64%でした。 また性暴力にショックを受けて記憶を失う子もいますし、幼い子どもの場合は、知らない大人に繰り返し聞かれる調査の場では緊張したりおびえてしまって、うまく言葉で表現できないことも。逆に子どもが思春期になると恥ずかしくて人に言えないという場合もあります。とくに加害者が身近な場合は、誰にそれを伝えて助けてもらえばいいのかわからないこともあります」(今西医師) 父親からの性加害を、同じく家族で自分を保護してくれる存在の母親に伝えていいのか、たとえ信頼していても学校の先生に家のことを話してよいものか、混乱する子どもの心情は十分理解できる。 「そして周囲の大人の先入観や思い込み。昨今の報道を見れば『子どもの性被害なんてあるはずがない』と考える人は少数派でしょうが、では現実に我が子が被害に遭う・遭っているかもしれないとは、なかなか考えにくいものです。 さらに加害者が身近な人である場合は『まさか夫が実の子どもに』『評判のいい先生が、そんなことするはずがない』という思い込みが邪魔をして、子どもからの精いっぱいのSOSサインを見逃してしまうことが多いのです。 先入観や思い込みは個人的な考えのようでいて、実は社会で多くの人が共有している価値観をインストールしたものです。気づかなかった個人がただ悪いという話ではありません。社会全体が子どもの性被害についての認識を一刻も早く変えていくことが求められています。大人が知ることで、身近な子どもが救われる可能性は十分にあります」(今西医師) ※1:一般社団法人springが2020年にオンラインで行った「性被害の実態調査アンケート」より