小児科医が「子どもの性被害」問題を「父親にも知ってほしい」と思うこれだけの理由
小児科医として医療現場で遭遇したこと
同時に小児科医として、新生児や子どもを診てきた数々の経験によるものも大きい。 「診察・治療の過程で児童虐待の兆候が疑われる場合、医師はそれを児童相談所や警察に通報する義務があります。小児科医として診察していると、運び込まれる子どもの中には、あざややけど、発育不良などの身体的虐待のほか、明らかに性的虐待が疑われる事例も少なくありません。 一般的には我々の業界には小学校前の尿路感染だと思っていて性虐待だったという症例や、思いがけない妊娠をしたお母さんの過去に性虐待があったという事例は、報告としてあります。 いくつかはニュースとして報じられましたが、全体から見るとごくごく一部。実際にはこのような例はかなりの数にのぼります。 そんな母親自身、子どもの頃から親や周りの人から性的虐待を受けてきた人が少なくありません。性的な児童虐待が、長期的にその人に与える深刻な影響。そしてその子どもにも影響が連鎖することを考慮すると、子どもの性被害について、もうひとつの私の専門である公衆衛生学的な視点から見て行くべきでは、と考えるようになりました」(今西医師) 実際に、内閣府男女共同参画局が若年層を対象に行った『令和3年度 若年層の性暴力被害の実態に関するオンラインアンケート及びヒアリング結果』によると、性暴力を受けた経験のある若者(16~24歳)は「4人に1人」という、かなりショッキングなデータも出ている。
「顔見知り」からの「継続する」加害
「性暴力」と聞くと、レイプや痴漢などの強制的なわいせつ行為を思い浮かべがちだ。近頃は盗撮行為なども問題になっている。しかし、言葉による性暴力(「色気づいちゃって」「おっぱい大きいね」などの言葉)、視覚による性暴力(AVやポルノ画像を子どもに見せる)、情報ツールを用いたデジタル性暴力(SNSでわいせつなメッセージや卑猥な写真を送り付ける)も含まれ、多岐にわたる。 発覚すればニュースとして報道されるレイプや痴漢、盗撮などに比べ、加害者が逮捕されにくいことから「事件化せず世間に知られることがない性暴力」にも多くの子どもたちが日々、さらされていることを、大人は再認識すべきだろう。子どもの性被害は、決して「珍しいこと」ではなく、私たちのすぐ身近で日常的に起こっているのだ。 また、子どもの性被害の加害者は、以前なら「不審者」といわれる、どこかの変質者の仕業、などと考えられていた時期があった。そのため親は子どもに「知らない人について行ったらダメよ」と口を酸っぱくして諭したものだ。しかし最近、子どもに性加害を加える対象が、身近な大人であることも珍しくないことが事件報道などからも周知されつつある。 2024年12月20日、2023年度に性犯罪で懲戒処分などを受けた公立学校の教員は320人で過去最多となったという文部科学省の調査が発表された。学校の先生だけでなく、塾講師、スポーツのコーチや習い事の先生、ベビーシッター、近所の人、そして親や親族……。怪しい挙動の「知らない人」ではなく、良く知っていて一見、善良に見える「身近な人」が加害者なのだ。 「子どもの性被害の特徴として、身近な人から長期的に継続して被害を受けやすいという点があります。子どもは一度の性被害でも大きなトラウマを抱えます。その後の人生に与える影響は計り知れません。身体のあらゆる病気と同じように、小児性被害も早期発見・早期治療が大事ということは広く知られてほしいと願います」(今西医師)