Appleのオーディオ機器はなぜ評価されるようになったのか? AirPods Pro 2の「聴覚補助機能」からヒントを探る
Appleの「オーディオ」への向き合い方
話を変えよう。AirPods Pro 2以降、Appleのオーディオ製品はBeatsブランドではなくても(=自社ブランドであっても)音質が良くなっている。そういう観点では「AirPods Max」のフルモデルチェンジ(※3)に期待したいところだが、それはさておいてAirPods Pro 2以降の新製品は「特に害はないものの、中身のないスカスカな音」と評されるような状況から抜け出し、一定水準以上の音質は確保できていると思う。 そこに「温度感」や「熱さ」といったものは感じないかもしれないが、「まっさらなTシャツとジーンズのような質感」だと考えれば、Appleの企業イメージも相まって納得できる範囲ではある。 (※3)2024年9月に充電端子をUSB Type-Cに変更し、カラーバリエーションを追加した新モデルが登場しているが、機能や音質面は2020年に発売された初代モデルと変わりない そもそも、Appleが「音の質感」という“マニアックな世界”に足を踏み入れる――そう考えている人も多いかもしれないが、実はそんな事はない。Appleは一貫して「テクノロジー」という文脈で音に関する問題解決や機能改善を図ろうとしている。 もちろん、他のメーカーも同様にテクノロジー文脈の問題解決や機能改善を行っている。しかし、Appleはスマートフォン/タブレット/PCのハードウェアとOSを握っているという他社にはない特徴がある。 そのメリットを生かして、Appleが圧倒的に優位に立っているオーディオの表現ジャンルがある。空間オーディオだ。 Apple/Beatsブランドのイヤフォン/ヘッドフォンはもちろん、Mac/iPad/Studio Displayの内蔵スピーカーは、空間オーディオの再現性が優れている。それはAppleの信号処理技術が優れているからという側面もあるが、耳の立体的な形状を計測し、それを立体音響の再現に活用する仕組みをデバイスのOSに統合している点も大きい。 同時に、Appleは音楽や動画の配信サービス“も”握っている。立体音響技術を活用できるコンテンツを積極的に展開し、デバイスやOSの強みを生かせるようにしているのだ。 例えば「Apple Music」では、空間オーディオを採用する楽曲は優先的にプレイリストに組み込んだり、ライセンス料で有利に扱ったりしている。そのため、Apple Musicで楽曲を配信するアーティスト(権利者)は、Dolby Atmosフォーマットでの制作に熱心になる。 従来、音楽を“立体的に”再現することはハードルが高かった。超が付くほど高品質のオーディオソースと録音環境を用意する必要があるからだ。しかし、昨今の空間オーディオ技術はこの課題を技術面で乗り越えている。 細かい物質の違いはあるが、ハードルの高い音場再現を軽くこなしてしまうことで、Apple製オーディオへのイメージが高まる事は言うまでもない。 そもそも、AirPodsシリーズはワイヤレスイヤフォンのジャンルにおいて、圧倒的に高いシェアを誇っている。このジャンルにおいて、決して安価な製品というわけではないのに、だ。なぜそうなったのかは、より深く分析してみる必要があるのではないか? テクノロジーを活用してオーディオに関連するさまざまな課題解決を目指しているApple。このアプローチは、今後さらにオーディオ業界の“常識”を壊していくだろう。
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