Appleのオーディオ機器はなぜ評価されるようになったのか? AirPods Pro 2の「聴覚補助機能」からヒントを探る
AirPods Pro 2の聴覚補助機能とは?
iOS 18.1(とiPadOS 18)で実装されたAirPods Pro 2用の聴覚補助機能を、もう少し深掘りしてみよう。 まず、ヒアリングチェックは、アプリを使って「気導聴覚検査」を実施する機能だ。ちょっと難しそうな名前だが、健康診断などでも行われる基本的な聴覚検査そのものである。 健康診断では簡易的に「1kHz」と「4kHz」の2つの周波数で検査を行い、30dBHL(※1)以下の音を聞き取ることができれば「正常」と診断される。それに対して、AirPods Pro 2では「125Hz」から「8kHz」の7段階の周波数で、左右それぞれの耳における応答をチェックするようになっている。 (※1)dbHLは「聴力レベル」の単位。一般的な健康診断の場合、1kHzでは30dbHL(ささやき声と同等)、4kHzでは40dbHL(小さな声と同等)の音を流してチェックを行う Appleは、「管理医療機器販売者」としてこの機能を届け出て、厚生労働省から承認されている(※2)。そのため、医療グレードの品質は保証されている。ただし、承認はヒアリングチェックアプリ、つまりソフトウェア機能に対して行われているため、AirPods Pro 2自体が「聴覚検査機器」として承認されているわけではない。 なお、Appleは2019年からWHO(世界保健機関)と共同で本機能に関する臨床調査を行い、200人の難聴の被験者を対象に機能のランダム比較テストを行ったところ、より厳密な医療機関でのテストとの一致度は81%だったという。 (※2)販売者として承認を受けたのは、日本法人の「Apple Japan合同会社」となる(以下同様) ヒアリング補助は、ヒアリングチェックで得られた「オージオグラム(聴力感度の特性グラフ)」に基づいて、ユーザーの聴力を補うために再生する音声の特性を“補正”する機能だ。補助は軽度~中等症までの難聴を持つ人を対象としている。重度の難聴に悩む人は対象ではないが、カバーできる範囲は決して狭くはない。 本機能でやっていることは、まさに管理医療機器としての「補聴器」と同じで、厚生労働省から承認も受けている。ただし、先に紹介したヒアリングチェックと同様に、承認はソフトウェア機能に対して行われている。AirPods Pro 2自体が補聴器として承認されているわけではないことには注意したい。 ヒアリングチェック/ヒアリング補助機能への対応は共に、AirPods Pro 2自体が日本における聴覚検査機器や補聴器となることを意味しない……のだが、「それじゃあ無駄か?」というと、決してそんなことはない。 WHOが2021年に初めて取りまとめた「世界聴覚報告書」を見てみると、軽度~中等症までの難聴を持つ人は思っている以上に多い。この報告書によると、全世界には15億人の難聴者がいて、そのうち10億人以上は軽度~中等度の難聴だという。日本でも約1430万人の難聴者がいるとされており、これは人口の1割を超えている。 「難聴であれば、補聴器を使えば良いのではないか?」と思う人もいるだろうが、難聴の症状があっても、補聴器を保有していないケースは少なくない。海外では補聴器の購入に医師が発行する「処方せん」が必要な国/地域もあり、補聴器の購入自体が“ハードル”となっているケースもある。日本の場合、補聴器の購入時に処方せんは必須ではないが、個人に最適化された性能の良い補聴器はかなり高額な上、買える場所が限られる。 筆者には、人間の声に近い周波数帯の音を聞くと「耳鳴り」が発生するという知人がいる。この知人はTVや映画を見る際にセリフが聞き取りにくいというものの、近傍での会話や街中で自動車の運転には問題がない。ゆえに「補聴器を使うほどではない」と考えているそうだ。 このような軽度~中等症の難聴を抱える人にとって、手軽に使えるAirPods Pro 2を通して聞こえに関する問題が緩和できたとすれば、補聴器の有用性を理解できる良い機会になるかもしれない。