運用終えた月探査機「SLIM」プロジェクト解散を前にJAXAが会見で総括
着陸地点が夜を迎えることから、SLIMは2024年1月31日に再び休眠状態に入りました。月面は昼間が約110℃、夜間が約マイナス170℃という温度差の激しい環境であり、電子機器などが故障する確率も上がります。SLIMはもともと月面での越夜(夜を越すこと)を想定して設計されてはいませんでしたが、JAXAは2月25日にSLIMが1回目の越夜に成功したことを確認(3月1日未明から休眠)。続く3月27日には2回目の越夜(3月30日未明から休眠)、4月23日には3回目の越夜(4月29日未明から休眠)に成功したことが、それぞれ確認されています。 しかし、4回目の越夜を終えて電力が回復したと想定される2024年5月24日から27日にかけての運用ではコマンドの送信に対してSLIMからの応答はなく、5月の運用はそのまま終了。その後も5回目の越夜を終えた6月21日から27日にかけてと、6回目の越夜を終えた7月24日と7月25日にも改めて通信が試みられたものの、SLIMからの電波は受信されませんでした。そのため、日本時間2024年8月23日22時40分の停波運用をもって、SLIMの月面での運用は終了しました。
ただ、SLIMの活躍はこれで終わりではありません。SLIMにはアメリカ航空宇宙局(NASA)との国際協力の一環としてレーザーリトロリフレクター(Laser Retroreflector Array: LRA、再帰反射器)が搭載されており、2024年5月24日にはNASAの月周回衛星「Lunar Reconnaissance Orbiter(LRO、ルナー・リコネサンス・オービター)」がSLIMの上空約70kmから照射した後に反射してきたレーザー光を検出することに成功しています。月面に存在し続けるSLIMは、今後も月周回軌道上からのレーザー測距の基準点のひとつとして活躍することになります。
SLIMプロジェクトを総括 メインエンジンのトラブル原因調査結果も
2024年12月26日の記者説明会ではSLIMプロジェクトの総括として、前述の成果が改めて説明されました。会見では当初計画されていなかった越夜を行えたことで取得できた貴重なデータの一例として、越夜後の機体各部の温度データが示されました。グラフを見ると、機体内部の機器の温度は越夜前よりも越夜後のほうが高くなっていたことがわかります。今後の月着陸機を開発する上で活用し得る知見が得られる可能性もあることから、JAXAはプロジェクトの解散後も内部の研究活動として、越夜後にSLIMが動作しなくなった原因の調査を続けるということです。 また、会見では高度50m付近で発生したメインエンジンのトラブルの原因調査結果も説明されました。それによると、メインエンジンの燃焼室に未着火のまま滞留した推進剤が異常燃焼を起こした結果、これにともなう過大な着火衝撃によるノズル部の破損・離脱と推力低下に至った可能性が高いと結論付けられました。推進剤が未着火のまま滞留したことは、SLIMで採用された推進剤の供給方式と関係があるとみられています。 SLIMは機体中央に構造材の一部としても使用されている燃料/酸化剤一体型の推進剤タンクを搭載しています。タンクの内部は燃料側と酸化剤側に仕切られた上で、それぞれにダイアフラム(ダイヤフラム)が設けられています。樹脂製ダイアフラムの片側に燃料もしくは酸化剤を充填し、反対側からヘリウムガスで圧力を加えることで、2基のメインエンジンや12基の補助スラスターに推進剤を供給する仕組みです。