運用終えた月探査機「SLIM」プロジェクト解散を前にJAXAが会見で総括
メインエンジンのトラブルで逆立ち姿勢に
前述の通りSLIMは日本初の月面軟着陸に成功しましたが、万事順調な着陸とはなりませんでした。高度50m付近まで降下した時に「ハ」の字型に搭載されていた2基のメインエンジンのうち1基でトラブルが発生して推力が半分近く低下し、SLIMは横方向へ移動しながら降下することに。接地時の横方向速度や姿勢が仕様上の範囲を超えていたため、逆立ちするような姿勢で安定することになってしまったのです。 それにもかかわらず、SLIMは最終的に着陸目標地点から約55m離れた場所へ着陸しており、精度100m以内の高精度着陸をいう目標を達成しました。画像照合航法のために撮影された画像をもとに、着陸性能は10m程度か、それよりも良好だったとJAXAは評価しています。ただし想定通りの着陸にはならなかったため、ユニークな2段階着陸を実証するには至りませんでした。 着陸後のSLIMの状況を明確に伝えたのが、冒頭に掲載した画像です。これはSLIMに搭載されていた小型ローバー(探査ロボット)「LEV-2(愛称:SORA-Q)」が撮影したもので、同じくSLIMに搭載されていた小型ローバー「LEV-1」が中継する形で地球に送信されました。LEV-1とLEV-2(SORA-Q)はSLIMが高度約5mまで降下した時に放出され、それぞれ月面に到達してから活動することに成功しており、世界で初めて複数ロボットの連携動作による月面探査を達成しています。
月の起源に迫る着陸後の科学観測に成功 3回の越夜も
逆立ち時に太陽電池が西を向いてしまったSLIMは着陸時点では発電ができなかったため、バッテリーを回路から切り離した上で一旦休眠状態に置かれました。そして太陽電池に太陽光が当たるようになったSLIMは2024年1月28日に通信を再確立し、分光観測(電磁波の波長ごとの強さであるスペクトルを得るための観測)を目的としてSLIMに搭載されていた「マルチバンド分光カメラ(MBC)」による岩石とレゴリス(月の土壌)の観測が行われました。 月の起源を巡っては、初期の地球に火星サイズの天体が衝突した結果形成されたとする説(ジャイアント・インパクト説、巨大衝突説)が有力視されています。その場合、月のマントルと地球のマントルの組成は似ていることが予想されます。月に隕石が衝突して形成されたクレーターの内部や周辺には月の内部に由来する物質が露出していると考えられており、MBCの観測では月のマントルに由来するかんらん石(橄欖石)を含んだ岩の観測が期待されていました。通信再確立後のSLIMはMBCによる分光観測を当初の想定を上回る10個の岩石に対して行いましたが、実際にかんらん石を示すデータが得られていたことが明らかになっており、研究が進められています。