日鉄買収阻止決定前にバイデン政権内で反対や懸念の声 訴訟リスクの指摘も 米紙報道
【ワシントン=坂本一之】米紙ワシントン・ポスト(電子版)は5日までに、バイデン大統領(民主党)が日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収阻止を命じたことを巡り、事前に閣僚や高官から買収阻止に対する反対や懸念の声が出ていたと報じた。買収阻止に関しては民主党の一部からも反対の声が上がっていたが、政権内でも判断が分かれていたことが明らかになった。 バイデン氏が3日に発表した買収阻止の決定に至る数カ月にわたり、ブリンケン国務長官やイエレン財務長官といった閣僚に加えキャンベル国務副長官、エマニュエル駐日大使、産業政策に関わる高官らが阻止への反対や懸念を示していた。 バイデン氏が阻止命令を出す前日に開かれたホワイトハウスの会議では、条件付きで買収を阻止する案をサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)らが提案したが、バイデン氏が賛同することはなかった。同案は、阻止の理由とした安保上のリスクに関して日鉄側に新たな提案をする機会を残し、トランプ次期政権に判断を委ねる戦略だった。 政権内からは、日本が重要な同盟国であり米国への投資に積極的であることや、阻止すれば訴訟に発展する可能性を指摘する声が上がっていた。安保上のリスクに関する十分な証拠がなければ、審査を担った対米外国投資委員会(CFIUS)の政治的中立性を損なう懸念も出ていたという。 バイデン氏は昨年の大統領選を巡って労働組合票を重視し、買収反対の全米鉄鋼労働組合(USW)に寄り添う姿勢を示してきており、対応を変えることはなかった。