年間200万人がアルコール依存を治療―依存者にセカンドチャンス与える米国
法制面でもセカンドチャンスが保障されている
そんな米国でも、仕事を失うことなどを恐れてなかなかリハビリを始められない人はたくさんいます。が、実は法律でリハビリ後の地位が保護されています。 The Americans with Disabilities Act (障がいのあるアメリカ人法)は、依存症回復中の個人に対する職場差別からの保護を保障。つまり会社はリハビリを理由に雇用者を解雇することができません。加えて一定の条件はありますが、Family & Medical Leave Act(家族医療休暇法)のもと、治療のため1年間に12週間の無給休暇を取得可能です。そして雇用主は雇用者の依存や治療に関して守秘義務があります。 ニューヨーク市では、近ごろ、包括的なメンタルヘルス行動計画「ThriveNYC」は6つの指導原則をあげていますが、その最初にくるのが「Change the Culture」です。ニューヨーカーの5人に1人がなんらかの精神疾患(依存症を含む)を抱えている(そんなに?!)として、メンタルヘルス問題をみんなの課題にしよう、今こそオープンに話しあおうというフレーズが続きます。 具体的には、今後25万人に対しメンタルヘルス応急処置トレーニングを提供し、苦しんでいる周りの友人や家族、同僚を助けられるようにすること、一般向け認知キャンペーンを展開して、メンタルヘルスにまつわる人びとの会話に変化をもたらし、個人やコミュニティが行動を起こせるよう支援することなどがあげられています。 セカンドチャンスの国でも、やはり依存症を含むメンタルヘルス問題は、まだまだオープンに堂々と話せることではないのですね。ドラッグやアルコールが歴史・文化の一部になっているようなニューヨーク市でも、やはりそこは同じなのだなと、改めて依存症、ひいてはメンタルヘルス問題と向き合うことの難しさを実感しました。そして、その「カルチャーを変えること」が、この街も飲み込まれつつあるオピオイド危機に対する一つの答えとして提示されていることも非常に興味深いです。 日本を米国さながらのセカンドチャンスの国に変えるなどというのは、文化や歴史的背景が全く異なりますから現実的ではないにしても、リハビリを決心した依存症者の仕事や環境を保護する法制面の強化や、自治体主導でメンタルヘルス問題をめぐるカルチャーを変えていこうという試みは十分に応用ができるのではないでしょうか。 アルコールだけではなく、脱法ドラッグなどへの依存がより一般に広がりつつあるとされる日本。法による処罰の厳格化だけでは、米国がそうだったようにいずれ限界が来る可能性もあります。依存症の先輩格(?)にならい、依存からの回復・更生に重きをおくこと、自治体などが中心になって依存症に対する社会の視線を変えていくことが、今後求められていくのではないでしょうか。