年間200万人がアルコール依存を治療―依存者にセカンドチャンス与える米国
リハビリ後に待ち受ける世界
こうしてさまざまな手段でリハビリを終えた人びとも、やがて日常生活に戻っていきます。日常生活とは家族、仕事、友人、趣味など、そもそも依存状態に陥った時に囲まれていたものですから、そのすべてが欲求や誘惑のきっかけ(トリガー)になりえるものです。数々の調査で、治療・リハビリ後の最初の6カ月のスリップ(アルコール依存症の場合は再飲酒)が一番多いことがわかっています。 そこで、滞在型のリハビリ施設にいた人や刑務所に入っていた人などは、すぐにトリガーだらけの日常生活に戻っていくことを避け、Sober living facilityあるいはHallway homeといった名で知られる社会復帰施設に一定期間滞在して、地ならしをするという選択があります。Sober(シラフ)であることが前提なので、まずはドラッグおよびアルコールのテストにパスしなければなりません。そしてシラフでい続けることも条件です。 入居者同士で掃除などの家事労働を分担しつつ、回復プログラムに出席する、門限を守るなど一定のルールがありますが、リハビリ施設よりずっと個人に自由裁量が認められています。そこから通勤・通学する人もたくさんいます。使用される建物も、一般的に施設というよりは普通の一軒家やアパートだったりします。 こうして依存症という同じ過去を共有する入所者同士でサポートし合いながら、薬物やアルコールなしの自立した生活を確立していくのです。
セカンドチャンスの国アメリカ
先月、ニューヨーク市のローカル局「NY1」主催のオピオイド危機に関する公開討論会が放送されました。パネルの1人は現市議会議長のコーリー・ジョンソン氏で、まず「今年でドラッグとお酒を絶ってから7年目になります」と発言。AAへ参加したことをきっかけに依存症を克服してここまで来たと語る彼に、会場から大きな拍手が送られていたのが印象的でした。 今はもう幻想でしかないという論もありますが、米国は「アメリカンドリーム」の国。努力すれば誰にでも平等に与えられるというチャンスには「セカンドチャンス」もしっかりと含まれています。いかに深刻で重大な問題を過去に抱えていようとも、それを努力して克服した人は、そういう過去を持たない「クリーンな」人よりも、かえって評価・賞賛されることさえあるのです。そして2度目があるということは、3度目や4度目のチャンスだって与えられるかもしれないということでもあります。大事なのは問題を乗り越えたあとの今現在のあり方というわけです。 薬物やアルコールの依存を1回(最初)のリハビリで完全に断ち切ることは実際非常に難しいと言われているので、これは依存症に苦しむ人たちにとってかなり救われる文化的背景といえそうです。