1日4万回叩く…行平(ゆきひら)鍋の「国宝級職人」が大阪にいはった!
姫野作.の「.」に込められた思い
会社名のお尻につく「.」についても、聞いてみた。 「親父の代まで『姫野工作所』やったんですけど、僕の代で名前を変えました。親父が亡くなって一人になって、どうしよかと思うてた時です。ある人と話しして、会社の名前の画数大事やで、と言われたんです。それで見てもらいました。今から12~13年前のことです。 画数をよくするためだけにつけた「.」ですけど、法務局へ行ったら『何て読むんですか。これもちゃんと読んで下さい。読まんと登録しません』って言われてね。だから会社名を正式に読むと『ひめのさくてん』。登録もそうなってます。 「.」を入れたら絶対伸びる、成功するイメージを持ちなさいとも言われました。でも最初はごねてましてね。「成功って何やねん」って。名前が売れるとか、海外に出るとか、いくら売れるとか。でも、そういうことやないなぁと。僕が思ったんは、まあまあ赤字やなく、ちゃんと仕事ができて、断るぐらい仕事があればいいなと。おかげさまで、今はまぁそんな感じになってます」
後を継いでくれる人に出逢えるよう“良縁祈願”
姫野作.では、アルミの行平鍋の他に段付鍋、プロが使うやっとこ鍋や銅鍋、フライパン、お酒の燗(かん)つけ器である燗銅壺(かんどうこ)やキャンプ用品、珍しいところでは、楽器のドラムの胴体なども作っている。求められるものを作るのが姫野作.の心意気。手作りだからこそ、細かな注文にも応えることができるのが強みだ。 現在、工房には3人のお弟子さんがいるが、鍋を叩くことができるのは姫野さんだけ。「息子はいるけど、向き不向きがあるからなぁ」とおっしゃる。確かに誰もができる仕事ではないけれど、この類い希なる技術を何とか継承してほしいと思うのは、私だけではないよねぇ。 「この仕事が好きな人に来てほしい。性別は関係ないです。金槌って力が要るように思えますけど、重さを利用した反発力で頭が上がってくるのをコントロールするだけなんです。朝の9時から5時まで、1日に叩く回数が4万回を超えますから、むしろ力を入れたら叩けません。肩や腕を痛めてしまいます」 呼びかけても気が付かんくらい集中して仕事する、そういう人が真剣にやってくれたら、5年くらいで何とかなるんちゃうかな、という姫野さん。一人前になったかどうかがわかるのは、音なんやそう。金槌、鍋、金床、この3つがしっかり当たる、いわゆる「芯にあたる場所」は1センチくらいしかなく、数ミリずれたら変な音がする。その音に気づくようになるまでに数年、そこから製品が作れるようになるにはさらに2~3年かかるという。 「こればっかりは“縁”なので。今はどこの神社へ行っても、後を継いでくれる人と出会えるよう“良縁祈願”をお願いしています」 姫野さんの技術を受け継いでくださる方と一日も早く出逢えますよう、日本中におわします八百万の神様(若者)に私からもお願いしたい。和食文化を支える本物の行平鍋が作られなくなってしまうのは、あまりに、あまりに忍びないから。 ---------- ************************ 有限会社 姫野作. 〒581-0037 大阪府八尾市太田1-11 電話 072-949-5174 https://himenosaku.net/ ----------
関 真弓