【今月行くべき展覧会】モビールで近代彫刻の概念を変えたアレクサンダー・カルダー展
天井から絶妙なバランスで吊り下がり、微風でゆらゆらと揺れ動くモビール。この動く彫刻を発明したことで知られるアレクサンダー・カルダーの展覧会「カルダー:そよぐ、感じる、日本」が、麻布台ヒルズ ギャラリーで開催中だ 【写真】アレクサンダー・カルダー展 会場風景
東京ではおよそ35年ぶりとなるカルダーの展覧会がテーマとするのは、日本の伝統や美意識との永続的な共鳴。会場にはカルダー財団が所蔵するモビール、スタビル、スタンディング・モビール、油彩画、ドローイングなど、1920年代から1970年代までに制作された約100点の作品が展示されている。
キュレーションを担当したカルダー財団理事長であり、カルダーの孫でもあるアレクサンダー・S.C.ロウワー氏にカルダーの作品について尋ねると、意外な言葉を口にした。 「カルダーの作品は、一般的なアート作品のようにコンセプトや文脈を読み解かせるようなものではありません。自分自身が感じていることに気づき、自己を認識し、自我を形成する、つまりは自分と向き合うためのもの、セルフアウェアネスをもたらすような作品なのです。作品を鑑賞する際は、ぜひ自らの内面にも意識を向けていただけたらと思います」 今回の展覧会は、カルダーの芸術作品における、日本の伝統や美意識との永続的な共鳴をテーマに掲げている。実は一度も来日を果たすことができなかったカルダーだが、日本との関連性はどんなところにあるのだろうか? 「カルダーは直感的に作品を制作するタイプで、計画を立てて制作していくようなスタイルではありませんでした。作曲家が音楽をつくる時に、頭の中に流れているものが音楽であり、譜面は取扱説明書のようなものであるように、カルダーにとっては頭の中に直感的に浮かび上がった造形が作品そのものなのです。作品のタイトルは制作後につけられたもので、タイトルのイメージに合わせて作品を作ったわけではありません。例えば、仏塔を意味するパゴダと名付けられた作品は、日本の五重塔のような形をしていますが、最初から五重塔をイメージして作ったわけではないのです。これは憶測になりますが、カルダーの潜在意識の中には日本的な要素が数多くあり、それらを作品が具現化しているのかもしれません」 ロウワー氏がそう話すのには理由がある。 「カルダーの普段の生活の中には茶筅やたわしなど日本にまつわるものが数多くあったり、カルダーの祖父が刀やツバなど日本の骨董品をコレクションしていたので、彼にとって日本は身近な存在でした。また、カルダーがフランスで暮らしていた時にイサム・ノグチやレオナール・フジタなど日本人の友人がたくさんいたので、彼らと交流する中で日本についての知見を深めていたのかもしれません」