【今月行くべき展覧会】モビールで近代彫刻の概念を変えたアレクサンダー・カルダー展
会場のデザインは、カルダー財団と20年来仕事を行ってきた建築家のステファニー後藤氏が担当。日本の伝統や美意識との永続的な共鳴という展覧会のテーマを巧みな空間構成によって際立たせている。 会場全体がバランスの良い3:4:5の比率からなる直角三角形の組み合わせでレイアウトされているのが特徴で、これは日本の建築が畳をモジュールにしていることに倣ったものだ。さらにはディテールにも和の要素がさまざまな形で取り入れられている。 「赤い壁を漆喰で作ったり、空間を黒い墨で染めた無数の和紙で囲んだり、壁や展示台を桜の木で制作したりしています。天井は桂離宮のジグザグした天井を意識していますし、床の間のようなディスプレイもデザインしました。こうした日本的な感性をモダンに表現した空間で作品を紹介することで、カルダーのことがより深く理解できるのではないかと思います」 カルダーのスタジオからも所々に日本の感性を感じると話す後藤氏。和の要素が盛り込まれた会場の雰囲気にカルダーの作品が自然となじんでいるのも、当然かもしれない。 アレクサンダー・カルダー本人は、どのような人物だったのか? ロウワー氏がその人柄を明かしてくれた。 「最後までボヘミアンなスタイルを守り抜いた人でした。そこにカルダーの人間性が現れていると思います。晩年になって多くのお金を得るようになりましたが、それでも同じ車に乗って、同じ服を着ていましたし、日々の生活はなにも変わりませんでした。集まったお金は友達の売れなかったアーティストに渡すこともあれば、教育に活かしたり、自ら出資して大きな作品を作ったり。決して有名になりたいとか贅沢な暮らしをしたいわけではなく、人となにかを共有したり、自分自身を見つけるための作品を作り続けたりしたところが、カルダーの素晴らしいところです。それを知った上で作品を鑑賞していただけると嬉しいですし、彼の生前の姿に思いを馳せることで、より展覧会を楽しめると思います」 会場はぐるっと一周すると最初に戻るように構成されている。二周、三周と観ることで違う風景が見えてきたり、作品への理解が深まったりするはずだ。そして、なにより自分自身のことを改めて見つめ直す貴重な機会にもなるだろう。 All works © 2024 Calder Foundation, New York / Artists Rights Society (ARS), New York 「カルダー:そよぐ、感じる、日本」 会期:~9月6日(金) 会場:麻布台ヒルズ ギャラリー 住所:東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階 休館日:7月2日、8月6日 TEXT BY HIROYA ISHIKAWA