大量に獲れるけど安い「マイワシ」に付加価値をつけた! 『ハコダテアンチョビ』に詰まった思い
熊木さんの1日は、朝3時から始まります。3時半に両親と3人で函館漁港を出港し、定置網で獲れたヤリイカを、5時半に市場へ運びます。6時になると、今度は一人用の磯舟に乗って、ウニ漁に出ます。水揚げしたウニは、母が待っている加工場に運び、“塩水パック”にして出荷します。ウニ漁の最盛期は、夜11時にやっと寝られるそうです。 忙しく働く熊木さんですが、息子の一言で立ち上がります。2021年、地元の漁師5人と、直販イベント『ハコダテ フィッシャーマンズ マルシェ』を開くと、これが大盛況! 飛ぶように売れますが、食文化の無いイワシだけはさっぱり売れない。
函館は「イカの街」と呼ばれています。毎年6月、スルメイカ漁が解禁になりますが、海水温上昇が原因なのか記録的な不漁が続いています。熊木さんは、定置網でヤリイカを獲りますが、ここ数年、マイワシが、1回の漁で、ドカッと2~3トンも掛かります。市場でセリ落とされないと、「熊木さん、持って帰って」と言われ、マルシェでお客さんに勧めても、「イワシ?」と首を振られてしまいます。そこでイワシの「フライ」や「つみれ汁」を作って試食してもらうと「あら、意外と美味しいわね!」と笑みが溢れます。しかし、一回の定置網で、2~3トンも獲れるイワシを、人件費をかけて加工しても、安いイメージからどうしても価値を見出すことが出来ません。
何かいいアイデアはないものか……。漁師だけで考えても何も始まらないと熊木さんは、水産加工会社、シェフ、商業施設、魚博士、就労支援施設に呼びかけ、マイワシに付加価値を付けるプロジェクトを発足します。その名も『ハコダテ アンチョビ プロジェクト』……。試行錯誤の末、2022年に世界初マイワシを使ったアンチョビがようやく完成しました。
熊木さんの行動力、それはマンション販売の営業で培ったものでした。 「一番大事なのは人間関係……。人と人とのキャッチボールなんですよ。行政も、組合も、お店も、漁師も、みんなで力を合わせて、ウィンウィンじゃないと、うまくいかないんです。この『ハコダテ アンチョビ』は、みんなの熱い思いが詰まった商品だと思っています」 熊木さんには、小学4年生と2年生の息子さんがいます。「4代目にさせますか?」と伺うと……、「継がせません!」とキッパリ。
「漁業の現状が、このまま変わらないのなら、継がせない」 という熊木さんですが、日本の漁業を変えていこうと頑張る父親の姿を、息子さんたちは、カッコよく見ているかもしれません……