コロナ禍の震災語り部たち 冷たい慰霊碑「ぜひ触りにきて」 オンラインで当事者たちが紡ぎ出す言葉を追体験 #知り続ける
佐藤敏郎さんと佐藤美香さん。2人の語りをオンラインで聞き、終わった瞬間に日常に引き戻されてしまうことを除けば、想像以上に効果的な取り組みだと感じた。現地で直接語りかける時よりも語り部の「腕」が問われる部分はあるが、それをさまざまな工夫で補っていた。佐藤翔輔准教授は、「オンライン語り部」の取り組みについて「とても優れたノッキングツール(興味を持ってもらうためのツール)」という。「考える時間、浸透する時間がなかなか取れないというデメリットはあるものの、入り口としては最適だと思います。オンラインで聞いて、もっと知りたいと関心を持った人に実際に来てもらうという流れが作れる。一度にたくさんの人に低コストで伝えることができるのも魅力」と話す。 確かに美香さんの話を聞きながらカメラが映す景色を見ていると、もう一度自分の目で同じ場所を見たくなった。佐藤翔輔准教授は語る。「オンラインによる語り部が『ノッキングツール』となる理由のもう一つに、いい意味での『分かりにくさ』がある。人間がリアルに行けば自由に辺りを見回せるけど、カメラだと画面の画角しか見えない。あの先はどうなっているのだろうかといったことが気になります」
想像することを促す語り部たちの言葉
様々な情報があふれる中、「分かりやすさ」はますます重宝されるようになっている。しかし分かりやすさは、時に人を「考えること」から遠ざけてしまう。丹野祐子さん、佐藤敏郎さん、佐藤美香さんの3人の語り部たちが話した内容の多くは何度も報道されており、知識としては知っていたが、ただそれだけだったことに気付かされた。「知っていること」と「理解すること」はイコールではない。感じたり、考えたり、想像したりすることが大切で、語り部たちが紡ぎ出す言葉はそれを自然と促してくれる。 コロナ禍でそれ以前とは同じようには語れなくなった語り部たち。彼らは直接、現地を訪れる人の顔を見ながら伝えたいのに、なかなかそれが叶わない現状に対して大きなストレスを感じているという。しかし、そんな危機的な状況であっても、何とか自分たちの言葉を多くの人に届けようと一生懸命、前向きに取り組んでいる。 オンラインでも、オフラインでもいい。語り部たちの声に耳を傾けてほしい。「あの日」から何年が経過していたとしても、それは新しい震災体験になるはずだ。 ――― 飯田和樹(いいだ・かずき) ライター/ジャーナリスト。1976年愛知県生まれ。同志社大学文学部卒業後、金属業界専門紙を経て、毎日新聞社に入社。中部本社、東京本社社会部、東京本社科学環境部など。2018年からフリーランスに。主に災害・防災関係の記事を執筆するかたわら、ネット記事の編集にも携わる。