森からどのような経済をつくるのか。森林ディレクター奥田悠史が語る15年後
「鳩吹山での森づくり」で始まっていること
奥田は、15年先を見据えて、複合的に森のビジネスをつくることにフォーカスしている。そのスパンは林業で考えると短いようにも、ビジネスとして考えると長いようにも感じるが、「30年先だと自分ごととして考えるのは難しい。だから15年先くらいの目線で考えている」という。 では、具体的にどのように組み合わせて森のビジネスを展開しているのか。やまとわが2022年に預かった、鳩吹山の財産区有林の事例を紹介したい。 広さは約55ヘクタール、「木材生産にすごく適しているわけではないけれど、カラマツ林やヒノキ林のほかにアカマツ林や広葉樹林のエリアもあって、多様な顔を持つ」と奥田は言う。 その多様さをビジネスにどう生かせるかを考えるために、まずは地形や地質といった基礎調査に加えて、猛禽類の営巣調査を実施。その結果、ハチクマ、ノスリ、オオタカが生息していることが確認された。陸の生態系のトップである猛禽類の生息や活動は、その森や田畑の生態系の豊かさを示す。 どうすれば猛禽類も暮らすこの森の生物多様性を守れるのか。どうすれば多くの人が森に遊びに来てくれそうか。そして、どうすれば、維持管理するための経営ができるのか。そこで、15年後の未来を描いたビジョンを作成し、7つのゾーンごとに、目指すべき森の在りかたと、木材収入だけに頼らない様々なビジネスのかたちを示した。 保全林は、土砂災害リスクがあるため、重機を入れずに、遊歩道を整備しながら管理する。カラマツの森は、木材生産地としてのポテンシャルが高いため、カラマツとクリの混交林に仕立てながら、長期スパンの伐採管理をしていく。見晴らしが良く明るい森は、企業や一般の人と一緒に森づくりを。檜(ヒノキ)の森は、過去に間伐が入っているため、時間をかけて美しい人工林を目指す。 あそびの森は、アクティビティとしてのフィールド利用を。薪炭林は、昔ながらの薪づくりの場へ。広葉樹林は、天然キノコ林の育成と、山採りの庭木の販売。そして、森への多様な関わり方によって、全体として生物多様性のある森づくりを目指している。 「隣町に薪釜でピザを焼く店舗がオープンしたのですが、その薪の年間使用量だけでも、薪炭林を取り戻していくきっかけをつくることはできる。こうして身の丈に合わせて稼ぐ事業と、稼げないかもしれないけど面白そうだからやってみたい事業を組み合わせて、経済を生み出しながら、森の管理が行き届く状態を15年先につくりたいんです」(奥田)