気鋭アートコレクターの自宅訪問。日本アート界に対して思うことを聞いた
――今後コレクターとして、どんな活動をしていきたいのでしょうか? 「今回のコレクション展で自分が集めたものを見てもらえて、お世辞かもしれないけど『楽しい』とか『センスがいい』って言っていただけるのは素直にうれしかったんですが、一つの区切りがついたことで、今後、何を目指してやっていくんだろうということは、真剣に悩んでいます(笑)。自分の問題意識で自発的に行動することは好きなんですが、広くコレクターとして認知されてしまったために『良いコレクターじゃなきゃいけない』『人の期待に応えなきゃいけない』という圧を、自分が感じてしまうとすごく辛いので。 まったく買わなくなるとギャラリーやアーティストが相手にしてくれなくなるかもですけど、もし相手にしてくれるなら、これ以上買わないで、日本のアート業界をより良くするための活動とかに時間やお金を使ったほうがいいかなとも思います。 正直、少々僕がアートを買ったところで、アート業界は今の形が続くだけ。それよりは、同じお金を、エコシステムやシステム自体を変える方向に、例えば批評家を応援するような活動とかに当てて行った方がよっぽど大きいんじゃないかなと。真剣に答えると、そういうことを考えています。アートを買っている人をコレクターと呼ぶのなら、僕は確かにコレクターなんですけど、コレクションを成そうとしている人かというとそうではないので、形を変えてアートに関わるのもいいと思っています。 実際、『NMWA(The National Museum of Women in the Arts)』という、ワシントンD.C.にある女性作家の作品だけを集めたプライベートな美術館があって、そこが3年に1度、『Women to Watch』という世界中から女性作家の作品を集めた個展をやるのですが、2024年ははじめて日本からも作家を出すことができました。その選出を実現した日本支部の委員をやったんです。少しでも早くアート界のジェンダー平等が実現するようにと思ってのことです。そのほかにもキュレーターや批評家を育成、支援する各種活動も応援しています」 アーティストにはアーティストの、経営者には経営者の、それぞれ孤独があると高橋さんは言う。同様にコレクターにはコレクターの孤独があるのだろう。好きな作品と出合い、所有できた喜びの先にはまた課題がやってくる。 芸術作品は実はおとなしくなんかしてはいない。誰かに所有されたあとも人の目に触れることを作品自ら望んでいると思えることもある。それに、作品は一人でいようとはしない。他の芸術品や芸術を愛する人間を引き寄せる。そしてこれが重要だが、一般に人間の一生より長く生きる芸術作品は今の所有者に一旦預けられているだけとも言える。 経済状況、法制度、税制の荒波に揉まれながら、それでもコレクターは守護聖人のように芸術を守り、愛し、受け継ぐ役割を進んで引き受ける。今回もその現場に接した気がする。 T2 Collection「Collecting? Connecting?」展 会期:~2025年3月16日(日) 開館時間:火~日 11:00~18:00(最終入館17:00) 休館日:月曜(祝日の場合、翌火曜休館)、年末年始(12月27日~1月6日) 入場料:一般 ¥1,500、大学生/専門学生¥800、高校生以下 無料 高橋隆史/Takafumi Takahashi ブレインパッド共同創業者・取締役会長、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程の修了後、外資系コンピューター会社を経て起業家に。ビッグデータ及びAI活用を推進するブレインパッドは2社目の起業にあたる。現代アートの購入は、友人の誘いで2018年から開始。
TEXT=鈴木芳雄