リザルトとは、時に“残酷な現実”を突きつけるもの~スーパーフォーミュラ第5戦~
そして、並びかけるには少し遠そうな距離ではあったが“ここがチャンス”と捉えた牧野は思い切ってイン側に飛び込んだ。ただ、少し強引だったこともあって止まりきれず、イン側にできたスペースを見逃さなかった太田が逆転。その後の90度コーナーでもサイドバイサイドのバトルを展開したが、今季初勝利が何としてもほしい太田がポジションを守った。
これにはもてぎに駆けつけたファンも大歓声で熱狂。2人のバトルに釘付けになった、が…。そこから約1分40秒後、スタンドの歓声は悲鳴に変わった。
残り2周、90度コーナーまでトップを守っていた太田のマシンにスロットルペダルのトラブルが発生。それが原因でスピンを喫してしまった。
「あーー壊れた!スロットル!」
公式映像でも、無線で発せられた太田の叫び声が流れた。
チェッカーまで、およそ6km弱というところまでトップを走っていた太田は、やり場のない悔しさを押し殺すかのように顔をうつ伏せていた。そのまま車両回収用のトラックに乗ってピットに戻ってくると、HRCの佐藤琢磨エグゼクティブアドバイザーが出迎えると、それまで強引に仕舞い込んでいた想いが爆発したのか…しばらくの間チームのプラットホーム前に座り込んで号泣した。
その頃、オーバルコース上に設けられたポディウムでは暫定表彰式が始まっていた。その中央には今季2勝目となる牧野が立っていた。この1勝を手にしたことでランキング2番手に浮上し、首位の野尻との差は5ポイントに縮まった。シーズン後半のチャンピオン争いを考えるとこれ以上ない結果と言える。
しかし、彼の表情に笑顔はなかった。
「えーっと…。今日はアイツ(太田)のレースだった思うし、1回仕掛けて、1周バトルをして、OT(オーバーテイクシステム)もほぼほぼ使い切って、そこでもう抜けなかったので…今日は俺の負けだと思います」
レース直後の優勝インタビューでそう切り出した牧野。
「まぁ、レースなので色んなことがあるのは承知の上ですけど…。ここで僕がアイツのために何かを言っても、アイツが何か報われることもないしアレだけど、ただ僕たちダンディアイアンは一見ふざけているように見えるかもしれないけど、めちゃくちゃ真剣にレースをやっているので、それが今日のバトルだと思います。次戦の富士も、アイツとまた良いバトルができるように、しっかりと準備して次に臨みたいと思います」