「昔話ではない」 朝ドラ「虎に翼」が法曹界でも絶賛されたワケ 今も残る「壁」壊そうと戦う弁護士は
優三のあの言葉は「憲法の本質を語っている」
《寅子は試験合格後の祝賀会で「男か女かでふるいにかけられない社会を願う」とスピーチ。その後、戦争で夫の佐田優三を失う。終戦後、思い出の川辺で、新たに公布される日本国憲法を新聞で読む》 このシーンは特に印象に残っています。 寅子が新憲法を読んだ瞬間、亡くなった優三が寅子の隣に現れます。そして「僕のためにトラちゃんができるのは、トラちゃんの好きに生きること」との言葉を思い出して涙します。 頑張らなくていい。そのまんまでいいーー。優三のこの言葉は、個人の尊厳と幸福追求権を保障するという日本国憲法の本質を語っています。寅子にとっては、優三が日本国憲法として生まれ変わり、帰ってきてくれた。そんなシーンだったと思います。 ーー寅子の友人たちは、朝鮮からの留学生や夫や息子らとの関係に悩む女性など、実に多様です。 この作品が画期的なのは、差別される女性や在日コリアン、性的少数者らを描き、その痛みに光を当てている点です。「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない」という14条の条文を友人たちは体現していたんですね。 このドラマはすべての個人の尊厳を描いています。 例えば、寅子の弟の直明は「一家の大黒柱にならないと」と大学の進学を諦めようとします。でも寅子は「男だからってあなたが全部背負わなくていい」と進学を勧めます。「男らしさ」に縛られている「男性の解放」も訴えていますよね。
「わがままなんかじゃない」寄り添うことは役割
《寅子は戦後、裁判官となり、裁判官の星航一との再婚を考える中で、夫婦同姓を義務づける法律に疑問を抱くようになる》 私自身、結婚して戸籍上の名字は変わりましたが、弁護士としては旧姓の佐藤で活動しています。強いこだわりはないと思っていましたが、実際に名字が変わってみると、やはり私は「佐藤倫子」でいたかったとわかりました。 夫婦同姓の問題は姓を変えなければならない側だけの問題ではありません。ドラマの中でも描かれていますが、相手の名字を変えさせた側も、「(改姓したくなかった)相手を傷つけた」という罪悪感を抱えて生きることになります。 ーー寅子は裁判所の仕事で旧姓を使いたいと相談しますが、認められません。上司から「なぜそんなくだらないことにこだわるのか」と言われると、寅子は「どうしてもこだわりたいことが人にはある。私のこだわりをくだらないと断じられる筋合いはない」と強い口調で言い返すシーンがあります。とても印象的です。 寅子が名字について悩み悪夢にうなされると、おいの直治に「まさか名字のこと?」と笑われます。それを「笑うな」と制止するのは直治の兄で、法律を学ぶ直人。「合意できないことはのみ込まなくていい。両性の平等と個人の尊厳は憲法で保障されているんだから」と。 もう1人、法学部時代の同級生で弁護士になった山田よねも「わがままなんかじゃない。当然の権利だ」と背中を押してくれます。多くの人が「ささいなこと」と笑ったとしても、憲法や法律の理念に基づき、「あなたの思いは大切です」と寄り添うこと。それが法律を学んだ人の役割だと思いました。