数字ではつかめない「食べた満足感」を仮説でつかむ
サプリメントに近い感覚ですね。 齋藤:ですよね、でも、おかしいんですよ、あれは体に必要なものなのですよ。 そうですよね。 齋藤:必要なのに、何でそう思うことができないか。僕はたぶん、ここが重要だと思っているんです。 はい。 ●人間が最初に味わった「肉」の記憶を再現 齋藤:人間が初めて味わった、そしてそれから長い間味わってきた「油脂とたん白」というのは、あけすけに言えば死んだ動物の、腐敗しかかって、油とたん白が混じりかけた肉だったんじゃないかと。油脂もたん白も劣化しかかったテイストといいますか。少なくともサラダ油やプロテインパウダーのような、精製されたものじゃなかったはずなんですよ。 自然の中で手に入るものなら、それはそうですよね。 齋藤:なので、精製されたプロテインを飲んでもサラダ油を味わっても、満足感につながる感覚は生まれてこない。脳が「これだ」と理解できない。 古典落語で、下町の目黒で脂っこいさんまを味わった殿様が、お城に帰ってから「脂っこいものを食べさせていいのか」と気遣う家来に、脂を抜かれた出し殻みたいなさんまを食べさせられて「これはいかん、さんまは目黒に限る」と言う話がありましたが、そんな感じで。 齋藤:成分は同じでも、「自分が知っている油脂とたん白はこんなのじゃない」という反応になるのではないか、そんな仮説を立てているんです。 なるほど、なるほど。 齋藤:自分の仮説に「なるほど」と言っていただけるのは本当にうれしいですね(笑)。 話を戻しまして、赤身の肉にちょっとサシが入ったり、豚骨ラーメンならコラーゲンというたん白と豚脂とが乳化したりすると、劇的においしくなったりします。 つまり、「動物の体の中で油脂とたん白が混ざり合った状態」だと「肉を食べた」という満足感が生まれる。ばらばらだと生まれない。元々存在している状態から油脂とたん白を分離してしまったら、おいしさから離れていきます。サラダ油はなめておいしいものではない。プロテインについては再三申し上げた通りです。 動物の肉を食べるということは、油脂とたん白が混ざった形で摂取することであると。でもそれって、考えてみれば当たり前のことですよね? 齋藤:そう、そうなんです。もともと油脂とたん白は肉の中に一緒に存在しています。ですが我々研究者は「より深く理解しよう!」と分けてしまうので、その当たり前に気付けませんでした。 分けてしまう? 齋藤:分析というのは、ものを分けることなんですよ。それでたん白何グラム、油脂何グラムと分ける。分けちゃうと、油脂とたん白の関係性を切り離しちゃうので、関係性が持つおいしさが見えなくなっちゃう。 なるほど。