数字ではつかめない「食べた満足感」を仮説でつかむ
齋藤:不二製油に限らず、技術者は「分ける」のが得意なんですけど、「組み合わせることで満足感が生み出せるんじゃないか」ということに気付いたんですね。要素に分解して、これこれの成分が必要だ、みたいなことをやるんじゃなくて、素材を組み合わせていって関係性をつくることに意味がある、という。これは、分けてしまっては絶対見えない話です。 一方で不二製油は、もともと油脂とたん白のパーツの引き出しはもう山のようにあります。ちょっと格好つけて言いますと、「まだ使っていない技術や素材がどれだけあるのか分からない」みたいな話なんですね。そこから満足感をつくるための要素として使えそうなのはないかといろいろやっていくと、「あれも使えるんじゃないか、これも使えるぞ」と。それを組み合わせる技術の総称が「ミラコア」です。1つの技術じゃなくて、いろいろな素材、技術を合わせてつくっていくプラットフォームですね。 ●大阪といえば「けつねうろん」やで ミラコアを構成するパーツには、例えばどんなものがありますか。 齋藤:例えばUSS(ウルトラソイセパレーション)製法。大豆を豆乳クリームと低脂肪豆乳に分ける技術ですね。この製法の素材も使っています。 相模屋食料さんが「ビヨンドとうふ」シリーズに使っている、豆乳クリームをつくっているやつですね。 齋藤:USS素材は豚骨風スープの風味をつくるときに非常に重要な技術なんですけど……、あ、試食品が来ましたね。 齋藤:お待たせしました。さあ、ご試食ください。 きつねうどんだ。 齋藤:お好きですか? はい、大好きです。いつも東京に帰る前に、新大阪駅構内の「道頓堀 今井」さんのスタンドで食べます。 齋藤:きつねうどんは、たいてい昆布とかつおをベースにダシを作ります。 何はともあれごちそうになります……ん、これはおいしいですね。 齋藤:それなりになっているかなと思います。これを食べて、「いやいや、植物性だね、物足りないね」というご感想は、いただいたことがないです。「この味付けじゃないんだよね」というご感想はありますが、それはもう「かつおと昆布のダシ」の範囲でのご意見だろうと。 齋藤さんは、これは仮説だ、妄想だ、と、何度もおっしゃいました。論文とか先行研究を踏まえたものじゃなくて、齋藤さんとスタッフの方が「こうなのではないか」という仮説を積み重ねていった到達点が、このパンチのあるダシの味、ということですね。 齋藤:そうです。実際に満足感がある味が出来るから、単なる空論にならずに説得力が生まれるんだろう、ということです。 自分があまり論理的ではないせいか、「妄想のような仮説を立てて、その説に基づいてできた実物で証明」という流れにあまり違和感を覚えないのですが、そういう発想は、技術職の方、研究者の方が行うのは難しいものなのでしょうか。 齋藤:「アブダクション」という言葉があるんですけど、聞いたことはありますか? え? 何かオカルト系で聞いたことがあるような。 (次回に続きます。明日、同じコラムでお待ちしています)
山中 浩之