数字ではつかめない「食べた満足感」を仮説でつかむ
脳がそれらの信号を統合して、「これ、カレーだね」と判断しているんですよ。つまりカレーだからカレーと思うんじゃなくて、カレーのスパイスなどの嗅覚の情報、舌触りや食感の情報、辛さ、酸味などの情報が脳内で統合されて、「これって自分の知っているカレーじゃないかな」みたいな感じで知覚される。知覚というか「表象(※)」ですね。 (※ 今、知覚していない事物や現象について、心の中で描いたイメージのこと) じゃあ、同じモノをつくるなら成分を分析してコピーすればいいはずだけど、どれがどういう知覚を経て表象に至っているのかを捕まえるのが難しい。どうするんでしょうか。 齋藤:ここでまた仮説が登場するんですけど、そもそも食材として、植物になくて、動物には満足感があるということなら、動物性の素材には何らかの共通の要素があるんじゃないか、と考えまして。 ああ、なるほど。 ●植物と動物の違いって何だろう? 齋藤:チキン、ポーク、ビーフって違うものじゃないですか。もちろんかつおも。だけどこれらに共通するものがあるんじゃないかと。何でそんなことを思うかというと、月曜日に豚肉を晩ご飯に食べて、火曜日は魚を食べて、水曜日は牛肉を食べてって、必ずメインディッシュに肉か魚を食べますと。全然物は違うはずなんですけれど、食事としてはちゃんと満足してフィニッシュしてますと、何でですかと。 これを栄養成分で説明できるのだとしたら、同じ栄養成分にした豆腐に変えても満足してもらえるはずなんですけど、「いや、豆腐じゃだめなんですよ」となる。じゃあ、魚と肉に共通するものがあるんじゃないかという。なにか、満足感の「コア」になるものが存在するというふうに考えるとどうなるか。あるかないかは分かりませんが、ひとまずそう考えようと。 それって何からできているんだろうなと考えていくと、これ、ヒントは実は高校の生物の教科書に載っているんですよ。 えっ。 齋藤:「動物細胞と植物細胞の違いは何ですか」って。 齋藤:右側の「植物細胞」はとうもろこしです。基本的に細胞壁を構成するセルロースとかが多いので、炭水化物が必ず含まれているんですね。一方で「動物細胞」、こちらはヒトですが、炭水化物ってほとんどないんです、我々の体に。 2%もないんですね。 齋藤:牛とか豚にもないです。骨と筋肉を構成するタンパク質、エネルギー供給源として脂質。つまり、油脂とたん白。 香り、味、食感の特徴として持っている理由は、油脂とたん白にある、という。 齋藤:そして大豆は植物の中では油脂とたん白が豊富なんだから、それを再現できるだろうと。 なるほど、しかし……最初に「プロテイン(たんぱく質)は満足感とは基本的に無縁」という意味のことをおっしゃっていましたよね。 齋藤:そう。たん白も、そして油脂も、それ自体はまったく満足感にはつながらないんです。サラダ油(植物油。菜種、大豆、とうもろこしなどが原料)を飲んでも満たされないですし、プロテインパウダーは、私、ずっと大豆たん白をやっていましたけど、むちゃくちゃ栄養があるのに、なんとも言えない無機質な感覚があるんです。