抜群のうま味と食材の力を引き出す酵素パワー: 鹿児島産「黒酒」の魅力とは
18種類ものアミノ酸が生み出す重層的なうま味
黒酒の製造工程は、途中までは一般的な清酒の場合と同じである。黄麹と蒸米で米麹を作り、それに酵母と乳酸と水を加えて酒母を造る。三段仕込みでもろみを作り、均一な発酵を促す。発酵が終わると灰汁を加え(ここが灰持酒たるゆえん)、搾り、醸造用アルコールと糖分を添加して規定の品質にする。 使われる麹が黄麹であることに注目したい。黄麹は主に日本酒造りに使われる麹だが、暑さに弱く、十分なクエン酸を出せなくなることから元来九州での酒造り/焼酎造りには不向きだった。それで20世紀前半に研究・培養されたのが現在の焼酎造りで使われている黒麹や白麹だった。東酒造では古来の製法を守るべく黄麹を用いているが、醸造所内の室温をエアコンで管理してリスクを回避している。「地酒の生産が減っていった背後には、温暖化が進んだこともあると思います」と福元さんは言う。 東酒造は灰持酒の製造に欠かせない木灰を自社で作るための設備を南さつま市に有する。樫の間伐材を3時間かけて燃やし、できた木灰に水を加えたものを濾して灰汁を作る。灰汁は、見た目は何の変哲もない無色透明の液体だが、強アリカリ性であるため取り扱いには注意を要する。
黒酒をテイスティングしてみよう。色合いは糖とアミノ酸が反応して起こるメーラード反応により淡い飴色を呈する。アルコール分は13.5~14.5度。デーツのような甘苦い香りに穀類の皮、ドライフラワーや干草、薬草の香りが混じる。口に含むと、トロリとした粘性があり、丸い甘味、複雑かつ強烈なうま味があり、後口に軽い苦味が残る。 「鹿児島大学水産学部の加藤早苗准教授らと共同で黒酒の成分分析等の研究を行っています」と福元さん。その結果、黒酒には18種類に上るアミノ酸が含まれることが分かった。うま味成分の代表格として知られるグルタミン酸だけでなく、多くのアミノ酸が共存することで、複雑で奥深い味がする。市販の本みりんと比べ、アミノ酸の含有量は2倍以上。また糖度は本みりんの6割程度だが、多様な糖類から成るため、甘みがマイルドで深みがあることもわかった。 黒酒自体の味や香りが調味に役立つだけでなく、すでに述べたように酵素とアルコールの力による副次的な効果が期待できる。主役ではなくスーパーサブになれるということだ。さつま揚げの製造を例に取れば、黒酒によって揚げ色、弾力、舌触りが向上、好ましい香りを付加することが分かっている。 つまり、和食のレシピの定番である「酒とみりんとしょうゆを1:1:1で」の調味が「黒酒としょうゆ」で済むことになる。しかも、出来上がりは後者の方がベターとなれば、みりんの存在は危ういと言わざるを得まい。