抜群のうま味と食材の力を引き出す酵素パワー: 鹿児島産「黒酒」の魅力とは
作りたてのカレーが「2日目」の味に
現在、黒酒は主に業務用として流通している。多くのさつま揚げ工場で使われている他、そば店(ゆでたそばを締める冷水に黒酒を混ぜて利用)、明太子業者(調味液に)、餃子店(あんに)、水産加工業者(干物の下処理に)等々に出荷。 東京・銀座にあるミシュラン2つ星の寿司屋「鮨よしたけ」の主人・吉武正博さんも愛用者の一人。以前、出演したテレビ番組でアナゴの下処理の際に黒酒を噴霧していることを公表し、「これを吹きかけることによって、細胞の中に酵素が入ってふわっと膨らむ」と述べている。 取材後、私も黒酒を入手して、実際に台所であれこれ試してみた。下ごしらえよりは調味料として使ったが、煮物や汁物はこれを入れることで味全体にまとまりが出る。驚いたのは、作りたてのカレーに黒酒を入れると「2日目のカレー」のような味になったことだ。福元社長が話していたように、少量で効果があり、料理が冷めても風味が萎(しお)れないことも実証済みである。 天然素材を用いていること、伝統手法で造っていること、「うま味」や「酵素」がキーワードであること、どれを取っても現代の食のトレンドと合致していて良いことずくめだ。黒酒の存在はもっと知られても良いのではないかと思う。国内の一般家庭でも、そして海外でも。 最後に福元さんが教えてくれた興味深いエピソードを添えておこう。灰持酒を復活させた東酒造創業者・東喜内氏は100歳まで現役で活躍、102歳の長寿を全うしたそうだ。
【Profile】
浮田 泰幸 ライター/ワインジャーナリスト/絵描き。広く海外・国内を取材し、各種メディアに寄稿。主な取材テーマは、ワイン、蒸留酒、コーヒー、食文化、旅行、人物。著書に『憧れのボルドーへ』(朝日新聞AERA Mook)など。ワインと産地の魅力を多角的に紹介するイベント「wine & trip」を主催。また、絵描きとしても活動。ワインのラベル画など、飲料・食品関連のデザイン制作に携わる。www.yasuyukiukita.art