水揚げは“サンマの13倍”でも生鮮向けの出荷は「たった1割」…水産のプロが「ぜひとも食べてほしい」と勧める“おいしい大衆魚”とは
この年末年始、お節料理をはじめ魚介類を味わう機会は多かったのではないか。マグロやサーモンのほか、カニやイクラ、酢ダコにカズノコ、ウニやホタテなど、正月向けに高級魚介の出番が増え、スーパーの品揃えも豪華になる。ただ、ここ数年、特にこうした「ハレの日」用の魚介類の価格が高い。 【写真を見る】どうして日本人はサンマばかりを重宝するのか…大漁でも食卓に並ばない“おいしすぎる大衆魚”の正体
タラバガニの1肩にかつての数倍の値が付いているほか、イクラはごく少量がカップに入っているだけなのに「こんなに高いの!?」と驚いてしまうほど。酢ダコも量の割に高いことが多く、何もかもが高根の花。正月くらいと奮発してみようと思ったが、あきらめた人もいたのではないか。おまけに昨年秋には、サンマやサケ、イカなどが不漁で高値が続いた。「魚離れ」「お節離れ」と言われて久しいが、このままではますます魚が食卓から遠ざかってしまいそうだ。 そうした中、日本各地の漁港で水揚げされても、消費者までほとんど届かない魚がある。それも大変メジャーな青魚。なぜか忘れられたような扱いをされていてもったいない。ここでいきなり、大上段から食料安保の重要性を語るつもりはないが、水産大国であるはずの日本が、多くの水産物を海外からの輸入に頼っているのは事実だ。しかも、「魚が獲れない → 輸入で賄う → 自給率が低下する」といった単純な流れだけではない。いま、「国産の魚を優先して食べよう」という、ごく当たり前の食習慣が求められている。【川本大吾/時事通信社水産部長】
“サンマの13倍”も獲れる青魚
日本は世界でも稀にみる海洋国家であり、周辺海域には何千種もの魚介類が生息し、食用として数百種を利用してきた。数えきれないほどの魚や貝、海藻などを味わっているのだが、温暖化などに伴う海洋環境の変化により、漁業生産量は減り続けている。 数えきれないほどある魚のなかで、いま、サンマより大量に獲れている青魚、大衆魚がある。「マイワシ」と「サバ」である。あまりにもったいないのだが、多くが流通していない。なぜかだろうか。 この2魚種がどうして食べられないまま消えていくのか、ということを説明する前に、漁獲データから紹介したい。「令和5年漁業・養殖業生産統計(農林水産省、概数)」によると、2023年の天然魚の水揚げのなかで、最も多いのがマイワシであり、計68万1000トン、次いでサバ類が26万1000トンとなっている。10万トン以上の魚種はこのほかにカツオ、スケトウダラ、カタクチイワシしかない。 つまり、マイワシとサバの2魚種は日本の漁業を支える重要な存在となっている。ともに北海道から九州まで、全国各地で水揚げされており、地域経済にも欠かせない魚と言える。この2魚種は、2024年も概ね順調に漁獲・水揚げされた。「漁業情報サービスセンター(東京)」のまとめによれば、全国主要港における同年1~11月までの水揚げ量(速報)は、マイワシが約51万9000トン、サバ類は約18万8000トン。不漁で終わったサンマは同期間、約3万9000トンだったため、マイワシはそのおよそ13倍、サバ類は約5倍の水揚げを示している。