水揚げは“サンマの13倍”でも生鮮向けの出荷は「たった1割」…水産のプロが「ぜひとも食べてほしい」と勧める“おいしい大衆魚”とは
小さくて流通しないが「おいしい」
サンマが秋の味覚であるのに対し、マイワシは梅雨時に「入梅イワシ」として旬を迎える。サバは「秋サバ」などと称され、主に秋・冬に漁獲がまとまり、おいしくなると言われている。だが、サンマに比べてともに認知度は低いと言わざるを得ない。 サンマは2024年秋も不漁で、ほっそりして脂の乗りも悪かったが、スーパーなどの店頭ではそれなりに幅を利かせていた。一方、マイワシ、サバは全国的にも鮮魚として流通する割合が少ない。 農林水産省の調査によると、マイワシとサバの生鮮出荷向け比率は1割台の前半で、多くが漁業用の餌か魚油または肥料などに使われている。マグロはほぼ全量が生鮮向け、カツオは約9割、サンマ、ブリ、カレイは4~6割である。 かつて大手スーパーで40年間、魚の仕入れを担当していた水産アドバイザーは、こうした現状について「国産魚の消費拡大では、メヒカリなどの“未利用魚”、つまりマイナーな魚が扱われることが多い。ただ、たくさん獲れるのに食べられていない“低利用魚”の有効活用が課題」と訴える。 マイワシは、鮮度やアニサキスに注意すれば小さくても刺し身、天ぷら、フライにするとおいしく頂ける。小型のサバも三枚下ろしにさえしてあれば、フライパンで2枚焼くことができて、大型よりもむしろ調理しやすいというメリットがある。 問題なのは、「食べない」「売れない」とあきらめ、漁港関係者などが都市部へ流通させないことだ。需要がないと見切りを付けられているため、現状ではどうにもならない。従って、国産のマイワシ、サバをおいしく食べるようにするには消費地、つまり都市部から「日本の代表魚を食べたい!」といった声を上げていかなければならないのだ。
川本大吾(かわもと・だいご) 時事通信社水産部長。1967年、東京生まれ。専修大学を卒業後、91年に時事通信社に入社。長年にわたって、水産部で旧築地市場、豊洲市場の取引を取材し続けている。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)など。最新刊に『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)。 デイリー新潮編集部
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