世紀の大発見!? 「ほぼ完璧」なアウストラロピテクスの頭骨が教えるヒトのルーツ
古生物学者で、米国アラバマ大学自然史博物館研究員の池尻武仁博士が、「古生物、生物進化、太古の地球環境」の分野の興味深いトピックスについて解説します。今回は、今から400万年近く前に存在した私たちの祖先アウストラロピテクスがテーマです。
「世紀の大発見」!?
「世紀の大発見だ!」 そう大騒ぎしても、決して気が早すぎることはないと思う。 8月28日付の学術雑誌「Nature」に「『ほぼ完璧』なアウストラロピテクス(Australopithecus)の頭骨発見」の論文(Yohannes Haile-Selassie, et al. 2019: Nature, 10.1038/s41586-019-1513-8)が掲載された。アフリカ東部に位置するエチオピアで見つかったこの頭骨に関するニュースは、日本でも、新聞社などが記事にしているようなので、ご存知の方もいるかもしれない。 「Elusive cranium of early hominin found」で検索すると、頭骨の写真が「Nature」のサイトにおいて閲覧できる。きれいに丸みを帯びた頭蓋骨は、頬骨の一部と下あごを除く、ほぼすべての骨がそろっているようだ。上あごには、歯がきれいに並んでいる。古地磁気学などの手法を使って推定した結果、この骨は約380万年前に生きていたアウストラロピテクスのものだという(Beverly Saylor, et al. 2019: Nature, 10.1038/s41586-019-1514-7)。 「何百万年も前の化石が、ほぼそのままの形で現存している」ということ自体がめったにないことだ。普段、私のような古生物学者は非常に限られた情報を基に、太古に起こった生物の進化のプロセスをなんとか解き明かそうと奮闘している。今回の大発見は、そんな古生物学者の期待をいい意味で裏切る、常識を覆すようなものといえる。 ただ、今回の発見を「世紀の大発見」というのは、非常にまれだからというだけではない。「これまでの人類史を書き換える可能性」さえあるからだ。