世紀の大発見!? 「ほぼ完璧」なアウストラロピテクスの頭骨が教えるヒトのルーツ
アウストラロピテクスとは
まずアウストラロピテクスについて、簡単におさらいしておこう。 私たちホモ・サピエンスが属するホモ属(Homo)の祖先とされるアウストラロピテクスは、その化石から約420万~200万年前に存在していたと考えられている。一言でアウストラロピテクスといっても、種や属の定義が研究者によって少し異なるが、複数種があったと一般に考えられている。 例えば、1974年にエチオピアで発見された約320万年前の「ルーシー」と呼ばれる有名な骨格化石は、「A. afarensis(アウストラロピテクス・アファレンシス)」という種だ。手足の骨など約40%の骨格が残っていたルーシーは当初、「完全な直立二足歩行を手に入れた最初の人類」と考えられていた。ちなみに、最近の研究によると実は男性だったそうだ。 そしてこれより古い、アウストラロピテクス最初期の種が「A. anamensis(アウストラロピテクス・アナメンシス)」で、約420万~390万年前に出現したと考えられている。これまでに、あごの部分骨や歯などが見つかっている。 A.アナメンシスとA.アファレンシスの化石記録には、約390万~350万年前にあたる「40万年近くにおよぶ空白の期間」が存在している。どういうことか? つまり、これまでは最も新しいA.アナメンシスの化石が見つかった年代が約390万年前で、最も古いA.アファレンシスの化石が見つかった年代が約350万年前だったということである。 そして、ルーシーの種であるA.アファレンシスは、最初期の種であるA.アナメンシスから進化したとする説が、これまで有力だった。
「ほぼ完璧」な頭骨は何を明らかにした?
今回の論文の発表者、米国オハイオ州のクリーブランド自然史博物館所属の古人類学者ヨハネス・ハイレセラシエ博士らの研究チームは、今回発見された頭骨について、歯の詳細な形態などからA.アナメンシスであると判定した。 この頭骨が最初期の種であることが分かると、次に研究チームはこれまでに見つかった部分骨や歯だけからなるかなり「不完全」なA.アナメンシスとされる化石標本の正確な種について、「ほぼ完璧」な頭骨という「正解」と比較することで答え合わせをしていった。 すると、これまでA.アナメンシスかA.アファレンシスかはっきりしなかった約390万年前のアウストラロピテクスの化石が、A.アファレンシスのものであるということが分かったというのだ。 さて、ここで次の二つのことを思い出してほしい。 (1)「世紀の大発見」であるA.アナメンシスの「ほぼ完璧」な頭骨は、「空白の期間」にあたる約380万年前のものである。 (2)A.アファレンシスはA.アナメンシスから進化したものと考えられていた。 つまり、今回の「ほぼ完璧」な頭骨の発見は、「約390万年前だったA.アナメンシスの最も新しい化石の見つかった年代が、約380万年前になった」「約350万年前だったA.アファレンシスの最も古い化石の見つかった年代が、約390万年になった」ということを意味する。そして、これはA.アナメンシスとA.アファレンシスは同時期に「共存していた」可能性があるということを示唆しているということだ。 もしかしたら、この二つの種はお互いに食糧や居住スペースを巡って争ったりし、時には交配さえしていたのかもしれない。