老舗町中華「萬来軒」 千葉商大生が伝統の味引き継ぎ再オープン 先代の信頼を得た本気度
昨年春からは1年間、休学し、外食する文化が根付き、自炊する機会が多くはない台湾に留学する機会を得た。現地では、貧しい家庭を対象に、手軽に調理できる和食やカレーライス、コロッケなどの作り方を伝授するイベントを実施した。食を通じて人を喜ばせることにやりがいを覚えた。
萬来軒の事業承継にも興味を持つようになったものの、営業再開への道のりは平坦(へいたん)ではなかった。「学生に店を任せられるのか」と疑念を抱く店主の藤ノ木さんの元に何度も足を運び、本気度を伝えた。こうして信頼を得た。
■「愛される店に」
同店ではこの2年の休業中に傷み、使えなくなった調理器具も多かった。そこで、リース契約を結び、価格を抑え、準備を進めた。
客席に配置するスペースも改装した。ただ、壁のタイルのような、町中華ならではの独特の雰囲気を感じられる部分はあえて残した。アルバイトの募集やシフト管理も一手に担う。
伝統の味の再現には一番苦労した。
「先代に認めてもらえないものをお客さまには出せない。長く愛されてきた店で住民の皆さんをがっかりさせるわけにはいかない」
藤ノ木さんに全メニューを繰り返し試食してもらい、少しずつ、お客に愛される味に近づけた。
醤油(しょうゆ)ラーメンや塩ラーメンに入れる「鶏油」には、野菜のエキスなどが配合された「完成品」は使わない。
あくまで鶏の脂肪の塊をそのまま仕入れて熱し、抽出することで、先代が生んだ深みのある味を作り出した。
藤ノ木さんからは「味は大丈夫。お客さま第一の思いで、努力を惜しむな」と激励を受け続けた。
芹沢さんは来年春には卒業し、金融機関で働くことが決まっている。
このため、それまでに店の経営を安定させ、別の学生にさらに引き継いでもらう計画だ。
「ぜひ経営に挑戦してもらい、この先も地域でずっと愛されるお店になればいい」と語る。これまでに自分なりに培った経営のノウハウは惜しみなく伝授する考えだ。
萬来軒は平日の営業。ランチは午前11時半から午後2時まで。夜は午後5時から8時まで店の魅力にひたり、おなか一杯になることができる。(松崎翼)