本当は“送料無料”ではなく“送料込み”――物流業界が2024年に直面する働き方改革の実情
「送料無料」という言葉の裏に犠牲を払っている人がいる
――以前、宅配の現場では、配送中に指を切断したにもかかわらず、配送を続けたドライバーさんのニュースに注目が集まりましたが、橋本さんはこのニュースについてどう思われましたか。 橋本愛喜: すごくショックでしたね。この報道についてドライバーの方々にどう思うか取材したところ、「気持ちが痛いほどわかる」と返ってきました。ドライバーは配達時間や配らなければならない個数が決まっています。それを配らないと評価が下がったり、契約によっては仕事を切られたりする。それを心配しているから途中で何かあっても休めないんです。私が聞いた中では、業務中にあばら骨を折った方がいました。ただ、そういう大きなケガをしても配達し続けたという方は結構いらっしゃいます。 ――コロナ禍で宅配ボックスや置き配などを利用する人も増えましたが、こういった動きはドライバーさんの働きやすさにつながっているところはあるのでしょうか。 橋本愛喜: 再配達がなくなるのでメリットにはなっています。ただ一方で、宅配ドライバーですらエンドユーザーと接する機会を設けなくてよいということは、荷物の配達や輸送に人間が携わっているという意識がどんどん薄くなってしまうのではと、個人的には少し懸念していますね。 ――荷物を運んでもらっている我々消費者に期待する部分はありますか。 橋本愛喜: あるニュースで、「2024年問題は運賃、送料が上がる懸念がある」と伝えられていて。運賃が上がるのは「懸念」なのかと私は思ったんです。こんなにいろいろな物価が上がっている中で、運賃は“出さなくていいコスト”として扱われる。しかし、生活用品や食べ物など私たちの目の前に映るものの多くが、一度はトラックに乗ったことがあるものばかり。つまり物流に関係のない人間っていないんです。形には残らないけど、運ぶことはすごく大事なサービスですよね。物流は社会インフラであり、トラックドライバーのような方たちの支えで社会が成り立っているんです。そのことを知っておいてほしいなと思いますね。 ――先日、2024年問題に対して政府の政策パッケージ案で、送料無料の表示について「見直しに取り組む」と明記されました。 橋本愛喜: 私は「送料無料」という言葉がすごく嫌いなんですね。本当は送料無料じゃない。送料無料は宅配はもちろん、企業間輸送の現場の軽視につながっている言葉だと思うんです。嘘をつきながらその言葉を使う必要があるのか。「送料無料」ではなく「送料込み」とか、「送料弊社負担」とかに言葉を変えるだけでも、ドライバーが運んでいるんだっていうのがわかって許容につながってくるのではないでしょうか。トラックドライバーが運んでいる「荷物」=「私たちの生活」だと思ってもらえるだけでも、だいぶ変わってくるかなと思います。 ----- 橋本愛喜 大阪府出身。フリーライター。大学在学中、病に倒れた父の後を継いで、工場経営者に。10年の経営の間、自らもトラックドライバーとして各地の得意先へ出向く。工場閉鎖後、人権や労働に関する社会問題を取り上げ執筆中。近著に自身の経験を元に書き上げた新書『トラックドライバーにも言わせて』(新潮社)、2023年6月に『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路~現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)を刊行。 文:田中いつき (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)