[懐かし名車] 日産Be-1/パオ/フィガロ:“パイクカー”という文化を創造したクルマたち
「Be-1」ネーミングの由来は、A,B,C案のアイデアの中で、もっとも支持を集めた「B-1」案だったから
車名の由来は、A/B/C案が出されたアイデアの中で、もっとも社内の支持を集めたのが「B-1」案だったことに由来している。 Be-1の登場当時、いわゆる専門家筋の中には、マーチのメカに新奇なボディをかぶせただけのキワモノと評する人もいた。たしかに、メカニズム面から捉えるなら、このクルマにはそれまでの新型車に期待されてきた高度な新技術は少なかったかもしれない。しかし、商品企画や生産技術面から見れば、Be-1はまさに最先端のクルマだった。 性能ではなく、感性や共感を武器にし、少ない台数でも成立するように、樹脂製のボディ外板や特殊な生産ラインを開発。少人数のプロジェクトチームで短期間で生産にこぎつけるというその過程のすべてが、今日の日本のクルマ作りにつながる革新性に満ちていた。 「レトロ調」とざっくりくくられたデザインにしても、誕生から30年を経た今なお鮮度を失っていないという事実を見れば、たんなる懐古趣味ではない、普遍的なスタイルを表現していたことがわかる。Be-1は浮かれた当時の世相とは裏腹に、じつは極めて真面目に、先見の明を持って生まれた1台だったのである。
Be-1を引き継ぐ斬新な発想で登場した後継車たちは、「パイクカー」というひとつの文化を形成していった
Be-1の予想を上回る反響に気を良くした日産は、続く1987年の東京モーターショーに、同様の構成を持つ「パオ」と、商用バンの「エスカルゴ」を出品。1989年に発売され、いずれも好評を得る。 ────────── PAO(パオ) ────────── 1987年の東京モーターショーも展示されていた「パオ」。発売されたのは1989年。パオは2か月の期間限定で5万台以上を受注した。この時代のパイクカーの中では、もっとも多くのユーザーが購入することができたクルマ。同じくK10 型マーチをベースにするものの、かわいらしさのBe-1に対し、ワイルドでアクティブ。開発のキーワードは「冒険」「リゾート」だった。 【日産パオキャンバストップ】●全長×全幅×全高:3740×1570×1475mm ●ホイールベース:2300mm ●車両重量:720kg ●エンジン(MA10型):水冷直列4気筒SOHC987cc ●最高出力:52ps/6000rpm ●最大トルク:7.6kg-m/3600rpm ●燃料タンク容量:40L ●トランスミッション:5速MT ●最小回転半径:4.4m ●タイヤサイズ:155/80R12 ●乗車定員:5名 ◎新車当時価格:144万8000円 ◆スピードメーターは丸形。象牙をイメージしたスイッチ、ざらっとした肌触りのシートなどで非日常感覚を演出。 ◆リヤシートの天井部分まで開く電動式キャンバストップ車も設定。 ────────── S-cargo(エスカルゴ) ────────── 他車とは違い4ナンバーの商用バン。ベースはマーチでなくADバンでエンジンは1.5L。Be-1などとは開発陣も違う。 【日産エスカルゴキャンバスットップ】●全長×全幅×全高:3480×1595×1860mm ●ホイールベース:2260mm ●車両重量:970kg ●エンジン(E15S型):水冷直列4気筒SOHC1487cc ●最高出力:73ps/5600rpm ●最大トルク:11.8kg-m/3200rpm ●燃料タンク容量:40L ●60km/h定地走行燃費:18.5km/L ●トランスミッション:3速AT ●最小回転半径:4.7m ●タイヤサイズ:155R13-6PRLT ●乗車定員:2/4名 ◎新車当時価格:133万円 ◆センターメーターとインパネシフトを採用し、使い勝手を最優先に考えたインテリア。ダッシュボード上部はテーブルのように使える。 ◆前席はセパレートでリクライニングが可能。後席は2名かけのベンチタイプ。もちろん折り畳んで荷室拡大ができる。最大荷室長1065mm、荷室高は1230mm。リヤゲートはバンパーのすぐ上から開く。 ────────── FIGARO(フィガロ) ────────── さらにその1989年のショーには、アメリカ製の本革シートや優雅な白いインテリアを備えた「フィガロ」を出品。こちらも1991年に発売した。Be-1が先着順の販売で混乱を呼んだ反省から、パオは2か月の期間限定で5万台以上を受注。フィガロは2万台の限定で、2回に分けて抽選を実施。いずれも好評のうちに完売している。性能ではなく、ある種のライフスタイルの表現で支持されたこれらのモデルは、パイク(尖った)カーと名付けられて、日産のブランドイメージの向上にも寄与した。日産では、1994年にサニーをベースに同様の思想で作られた「ラシーン」も発売。こちらも一定の評価を得て、現在の中古車市場でも高値で取り引きされている。 【日産フィガロ(3AT)】●全長×全幅×全高:3740×1630×1385mm ●ホイールベース:2300mm ●車両重量:810kg ●エンジン(MA10ET型):水冷直列4気筒SOHCターボ987cc ●最高出力:76ps/6000rpm ●最大トルク:10.8kg-m/4400rpm ●燃料タンク容量:40L ●10モード燃費:13.6km/L ●トランスミッション:3速AT ●最小回転半径:4.7m ●タイヤサイズ:165/70R12 77H ●乗車定員:4名 ◎新車当時価格:187万円 ◆手動オープントップを採用。ドアやルーフなど開口部が大きいことで車体剛性を強化。重量増に対応するため1Lターボを積む。 ◆外観に負けず劣らず高い評価を得た白基調のインテリア。メッキを随所に使い上質感とレトロ感覚を演出している。AM/FMチューナー付きCDプレーヤーはオプション。 ◆フィガロのために特別にデザインされた本革シート。インパネやピラートリムには柔らかい質感のソフトフィール塗装剤が使われた。全体の基調は白だが、ステアリングホーンパッドやカーペットなどはボディカラーとコーディネートされる。 ◆1989年の東京モーターショーに展示されていた「フィガロ」。発売されたのは1991年。フィガロは2万台の限定で、2回に分けて抽選を実施され、多くの愛好家のもとにデリバリーされている。